人工妊娠中絶禁止法案に揺れる極右政権下のポーランド。ロックダウンでもデモやストライキが続出

アーティスティックな抗議ポスターも

ハリウッド映画をモチーフにした抗議ポスター

ハリウッド映画をモチーフにした抗議ポスター

 ロックダウンのさなかにデモ、ましてやストライキなんて……と日本では、この行動に対して理解を得るのは難しいかもしれない。  だが、過去には2度も国が消滅、第2次大戦後は共産圏の支配下に置かれたポーランド国民の不屈の精神は並のものではない。そのたびに独立や民主化を実現できたのも、こうした争い続ける力があったからこそで、そうでなければ今同国が存在していることもなかったかもしれない。  筆者は現在そのポーランドに滞在しているが、人工妊娠中絶禁止が決まった直後から、SNS上では抗議の意を示す「赤い稲妻」をプロフィール画面のフレームに設定する人が続出。そうしたウェブ上のプラットフォームでは、賛成派・反対派、身近な友人や知り合い同士でも激しい意見のやりとりがなされているハリウッド映画をモチーフにした抗議ポスター また、ツイッターやフェイスブック上では「#wypierdalać」「#strajkkobiet」といったハッシュタグのもと、社会主義時代に民主化を訴えた「連帯」と、ハリウッド映画に出てくるアイコニックな女性キャラクター、そして稲妻マークをコラージュした画像なども出回っているので、ぜひ検索していただきたい。  これは「連帯」の抗議ポスターに『真昼の決闘』のゲイリー・クーパーの画像が使用されていたことが元ネタになっており、今回は『エイリアンシリーズ』のリプリーや『ターミネーター』シリーズのサラ・コナー、『キル・ビル』シリーズのザ・ブライドなどがコラージュされている。  先日は近所の公園でも学生たちが集い、デモの打ち合わせをしている現場に出くわしたが、ロックダウン下でのこうした行動は、国民全員が当事者意識を持っていることの表れだろう。そもそも、非常事態での法案強行が行われていなければ、こうした抗議も発生していなかったはずだ。

政府へは「卑劣極まりない」の声も

 実際に現地で意見を聞いてみると、今回の違憲判決に反対する層からは次のような反応が返ってきた。 「このタイミングで法案を強行するのは卑怯極まりない。女性の人権に対する攻撃であるのはもちろん、民主主義に対する攻撃だと思います」(男性・50代) 「自分には関係ない高齢者や男性がこうした法案を後押ししているのは悲しいです。ポーランドはカトリックの国なので、親戚や友人にもそうした人がいるので、たとえ衝突しても避けては通れないというか、向き合うしかないと思っています」(女性・30代) 「今回の決定に怒りを覚えているなら、次回の選挙で誰に入れるべきかよく考えるべきです。放っておけば同じことが起きますから」(男性・30代) 「女性の人権が踏みにじられることに対して、男性が抗議の声を挙げるのはとても頼もしいです。家族やパートナーが支援してくれなければ、私たちだけで戦うのは難しいですから」(女性・30代)  はたして、これまでのように国民の声で法案は覆ることになるのか、それともコロナショックに乗じた政府のゴリ押しで終わってしまうのか。ポーランドの国民性を考えると、「なあなあ」のままで終わることがないのだけは間違いない。 <取材・文/林 泰人>
ライター・編集者。日本人の父、ポーランド人の母を持つ。日本語、英語、ポーランド語のトライリンガルで西武ライオンズファン
1
2
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会