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次にインタビューしたのは現在22歳の鈴木佳奈さん(仮名)。彼女もまた、高校生~大学2年生のときに無許諾音楽アプリを利用していたという。
「サブスクにはないアーティストの曲がたくさん入っていたから使っていました。数年前はサブスク解禁していないアーティストも結構いて、聞けない曲が多かったので」
では、ストリーミングサービスで楽曲を配信するアーティストが多くなったために無許諾音楽アプリの利用を辞めたということだろうか?
「いや、そういうことでもないです。最近の無許諾音楽アプリって
使い勝手が悪いんですよね。Music FMとかはYouTube上にない曲も聴けたけど、最近の無許諾音楽アプリはYouTube上にあがっている動画の曲しか聴けないものが多いんですよ。前のスマホにはMusic FMが入っていたんですけど、機種変更したときに新しいスマホにも入れようと思ってApp Storeで探したら見つからなくて」
返ってきたのはなんとも恐ろしい答えだった。では無許諾音楽アプリが以前のままのようなシステムであれば使い続けていたのだろうか?
「多分。まだサブスクで聴けないアーティストもいますし。今はサブスク解禁していなくてもiTunes Storeにあるアーティストは一曲ずつ買って聞いていますが、正直不便です」
具体的なアーティスト名を訪ねてみると、いくつかのアイドルグループの答えが返ってきた。鈴木さんはコンサートへ足を運ぶこともあるそうだ。もしもそんなお気に入りのアーティストが無許諾音楽アプリの利用を反対していると知ったら、どうするのだろうか? 彼女は数秒沈黙したあと、口を開いた。
「多分どうとも思わないですね」
応援しているアーティストにお金が入らなければ、活動が難しくなることも容易に考えられる。その点についてはどう考えているのだろうか。
「別にどうでもいいです。曲は聞きたいけど、熱狂的に応援しているとかじゃないので。『推しにお金を落として、その分頑張ってもらう』みたいな風潮も正直よくわかんないですね。結局他人だし、別に活動に期待とかしていないので。消費の対象でしかないというか」
鈴木さんは「無料だろうが有料だろうが、使いやすいものを使うだけ」と話す。決してお金を使うことを拒んでいるわけではなく、「単純に無許諾音楽アプリの方が使いやすかった」というのが本音のようだ。現在彼女はApple Musicを利用しているそう。使い心地を聞いてみると、「概ね満足しています。聴けないアーティストがいるのは不便だけど、まあ仕方ないですよね」と答えた。
「音楽業界の人は他人、だからどうでもいい」の危うさ
今回インタビューした二人に共通するのは、「無料だろうが有料だろうが、使いやすいものを使う」という点だ。彼ら・彼女らにとって有料か無料か、アーティストにお金が入るかということはそれほど問題ではなく、「自分が使いやすいかどうか」が重要なのだ。
しかし、当たり前の話だが大前提として無許諾音楽アプリは著作権を侵害しており、違法である。聴く側も無許諾音楽アプリから曲をダウンロードした場合は、刑罰として「2年以下の懲役または200万円以下の罰金(またはその両方)」が科される。さらにCDが売れず、コロナ禍でライブやコンサートを開催できないアーティストに対して、ストリーミングサービスが活動の下支え的な役割を果たしている場合も少なくない。適切なお金が支払われないことによって音楽業界が縮小していけば、私たちが普段慣れ親しんでいる文化が消えていく可能性すらあるのだ。
アンケート内の「お気に入りのアーティストが、あなたが使っている音楽アプリに反対の意思を示したら?」という質問には、約3人に1人が無許諾音楽アプリの「利用をやめると思う」と回答している。裏を返せば、約3人に2人は「今後も使うと思う」と回答しているわけだ。
LINE MUSICはアンケート結果を踏まえた結論として「今後はアーティストとも協力して啓蒙を続けていくことで、正しい理解の浸透および無許諾音楽アプリの一掃に期待がもてる」としているが、筆者は正直前出の約3人に2人には、いくら啓蒙活動をしたところでどうにもならないのではないかと思う。
「文化が消えてから気がつく」という最悪のパターンにならないことを願うばかりだ。
<取材・文/火野雪穂>