――何があるかわからないから、というのはどういうことですか。
「6月にがん研究センターにいたときに治療が終わって、抗がん剤とか放射線治療などをやっていた。それから1か月後の8月、検査から帰った時に、何かの数値が下がったせいで緊急入院することになったんだけど、なぜかその時の記憶が全くないのね。
こういうのが本当に嫌だなと思ってて。だから自分が死んでも、多分わかんないんじゃないかな。例えば臨終で目を閉じる前に『息子よ』と言ったとしても、もう全く意識がないんじゃないかな。わかんないうちに死んじゃうかもしれない。
検査入院した記憶がないことを女房に言ったらびっくりされちゃって。なんかシャブ中みたいにずっと爪を気にしてたりとか、変な行動をずっとしてたんだって」
――それは薬によるものでしょうか。
「ちょっとわかんないけど、薬じゃないと思うな。何かの数値がおかしくなったせいで、そうなっちゃった。自分のことがわかんなくなっちゃったみたい。死ぬ覚悟はあるけど、それだけは避けたいんだよ。目をつむる瞬間までなんとかギリギリで意識を保ってテレビを見ていたいよ」
――意識が戻ったのはいつだったのでしょうか。
「気づいたら戻ってた。ああ、生きてるって感覚も別になかった。今まで通りとおんなじ感じ、記憶が抜けてるという感覚だった」
――ご自身の命と向き合われる中で、若い世代に伝えたいことなどありましたら教えてください。
「まあ、俺がやってきたようにやるってのは一般的には難しいかもしんないけど、『好きなようにやる』ってこと。人生1回だから好きなことやる、失敗しても。その方が生きてて楽しいと思うけどね。やっぱみんな世間体とか、しがらみが色々あるから出来ないんだよね、自分の好きなことが。でもそれは人としてどうなのかなって、俺は思うね。俺は好きなことやってきたから後悔してないし。まあでもガンになった年齢が早すぎるから、もうちょっと待って欲しかったけどな」
――経験豊富な沢木さんに、女性と付き合いたいと思ってる男性に対して、どのようにアプローチするのが良いかご意見をお伺いしたいです。
「例えば俺なんかずっとナンパしてたから、数打てば当たるじゃないけど。とりあえず、喋りかけないと始まんないからね。それはナンパだけじゃなくて。喋んないと始まんないじゃん。まずはそこだよね。まず話しかけるっていう」
――ちなみに最後の牙城はどうやって崩していくんですかね。
「俺はちょっと特別だから、やり方が」
――そこをちょっと詳しく……。
「やるかやらないかだから俺は。単刀直入、僕の場合は。『お前俺とやんないと一生後悔するぞ』みたいな。それで引いていったらそれはそれ。ともかく早いほうが、ダラダラダラダラ飲み歩いてダメだったらショックじゃない。金もかかるし時間もかかるし。だからなるべく単刀直入。AV男優だし、そういうのわかってて話してるわけじゃん、きっと。無駄な時間を過ごしたくないから」
――これってAV男優じゃなくてもきっと使えることですよね。
「ほんとにその気がなかったら女のコは帰っちゃうし、その気があれば何かちょっと変わった反応が見れると思うんだよね。そしたら押していけばいいし、まあ引かれたまんまになる可能性はあるけど」
――実戦で使えるテクニックをひとつ教えてください。
「昔からよく言ってるのは、手から気を出すこと。気功みたいなもんだよね。手を握るってすごい大事だったりするんだよね。手を握ると反応がよく見えるし、女が興奮し始める。あともちろん目見ないとダメだけど。目を見ながら手を握る。まあでも僕らは嘘つきだから。仕事だと女を騙すために、盛り上げるためにそういうことをやるんだけどね。僕と同年代の男優なんかね、『結婚しようよ』とか耳元で言ってたからね。けっこうその気になっちゃう女いるから。そうすると感度もアップするし良い画が撮れるじゃん」
家族の話とは相反して、ここでは伝説のAV男優としての一面を垣間見ることができた。
「性欲を追い求める」という、ただ1つの目的を持って突っ走ってきた沢木。人生の終焉を意識せざるを得ない状況の中、最期まで自分らしく命を全うしようとする彼を今後も見守っていきたい。
<取材・文:杉渕那音・卯月雅之>