成長はおろか回復すら見込めない経済状況、少子高齢化という現実的な問題への対応策は示されず、「仕方のないこと」とまさかのまとめがされている第11話だが、オチはさらに強烈だ。
「そうだ。あんたが結婚してたくさん子どもを産めばいいのよ!」
「大丈夫。私ががんばって子育てしやすい街づくりしてあげるから」
「そうですね。日本経済の成長も大切ですし、これからの日本を支える若い人達が安心して子どもを産み育てられる社会にすることも必要ですね」
「そのためにも親の扶養や障害などの心配をせず、生涯にわたって給付が受けられる公的年金制度をこれからも維持していくことが重要なんですよ」
経済成長は大切、そのとおりだ。子育てしやすい街づくり、そのとおりだ。そんな当たり前のことは誰もが知っているが、それを行うのはこのマンガを発表している国の仕事である。言われるまでもない、というか「お前が言うな」である。
さらに、こうした問題の解決策が「結婚してたくさん子供を産めばいい」なのだから恐れ入る。「大切さを説いている暇があったら、実際に解決してくれ」と感じた筆者は心が狭いのかもしれない。
しかし、このマンガを読んで「昔も大変だったから仕方がない。そうだ、子どもを産んで頑張ろう!」と読者が感じると思っているのだとしたら、舐めているとしか言いようがないだろう。
最後には「バリバリ働いて、今週のお見合いパーティも頑張りましょ!」という捨て…決め台詞まで載っている始末である。
低い給料のなかから高額な税金を払い続け、それでも老後はまったく安心できないこのご時世。親の世話ですら不安がいっぱいで、日々の暮らしを賄うだけでも辛いのに、子どものことまで考える余裕なんてとてもないという人は少なくないだろう。
それに対して厚生労働省の答えは「仕方がない」「バリバリ働いてお見合いパーティ」である。
また、現実に給付年齢の引き上げが議論されていたり、すでに9月から一部保険料が上がっているにも関わらず、「保険料が際限なく上がるなんてことはありません」「年金が給付されなくなることはありません!」と断言しているのも謎である。まあ、あとから「改ざん」「破棄」すれば済むとも言えるが……。
莫大な赤字が生まれている年金の運用についても、「常にプラス運用というわけではありませんが、平均すると収益は上げていますよ」と「溶かしている」こと自体には触れていない。
ここまで読んで「たかがマンガ」と思う読者の人もいるかもしれない。しかし、筆者はそれ以上に、中身のない「自分で頑張れ」というマンガを公の機関が発表することに対して、「たかが国民」と考えている証左だと感じた。
菅政権が発表したように、国民に自助を押しつけるのはもはや政府の基本姿勢となっている。本来、国民のために働く側がそれを言い始めたら終わりなのだが、こうしたマンガの内容を見るにその動きは加速しそうだ。そういう意味では、この作品は暗い未来への警鐘なのかもしれない。
<取材・文/林 泰人>