政令指定都市から特別区への“格下げ”となる都構想のデメリットに、大阪市民も気づいてきた

維新の府市一体行政は、経済成長率で全国平均を大きく下回る

維新副代表の吉村洋文・大阪府知事

維新副代表の吉村洋文・大阪府知事も連日、れいわと同じスタイルのゲリラ街宣(まちかど説明会)で都構想への賛成を呼び掛けている

 そこで告示日の合同街宣後の囲み取材で、松井氏にこの食い違いについて聞いてみた。直前の質疑応答で「反対派がデマを流している」と松井氏が話したのを受けて、次のような質問をぶつけたのだ。 ――反対派は「(維新府政市政)10年間で大阪は成長していない。府のGDPも家計消費も落ちている」と言っていますが、これもデマなのですか。 松井市長(維新代表):デマですよ。(2011年に)我々が府市一体で行政を受け持ってからは、(成長率は)確実に伸びて行っています。 ――何%ぐらい伸びて、どこの出典を見れば、書いてあるのですか。 松井市長:大阪府のホームページに載せていますから見てください。
れいわ新選組のゲリラ街宣で大石氏が映し出したグラフ

れいわ新選組のゲリラ街宣で大石氏が映し出したグラフ。大阪の経済成長率が全国平均を大幅に下回っていることを示した

 大阪府に問い合わせて教えてもらったのが、2019年12月版「データで見る『大阪府の成長戦略』」。そこには、維新の府市一体行政(“バーチャル都構想”)が始まった2011年の前年(2010年)から2016年までの年平均成長率が記載されていた。それを見ると、驚くべきことに大阪府は全国平均を下回っていたのだ。 <2010年~16年の年平均成長率>  大阪府      +0.79%  全国       +1.29%  維新府市一体が始まった2011年からを見ても、傾向は同じだった。 <2011年~16年の年平均成長率> 大阪府       +0.58%  全国       +0.95%  二重行政を解消した維新府市一体行政(“バーチャル都構想”)のメリットが出ているとすれば、大府府の成長率は、二重行政の残る他の都道府県を上回るはすだ。しかし実際には、全国平均以下になっていた。前述の大石氏の主張の方が正しく府のウェブサイトにある資料とも一致、維新の謳い文句の「大阪の成長を止めるな」の方こそ「デマ」にしか見えない

松井市長の言う「確実に成長している」なんてデータはない

維新代表の松井一郎市長

維新代表の松井一郎市長は10月15日の会見で、二重行政を解消した維新府市一体行政の効果について検証することを約束

 そこで10月15日の松井市長会見で、「『大阪の成長を止めるな!』の維新のキャッチフレーズはイカサマではないか」と改めて聞くと、こんな答えが返ってきた。 「大阪のGDPが伸びているというのは、これは間違いない。今、大阪の成長の試算はちょっと一度検証させてもらいます。どういう基準で数字が出ているのか。大阪府・市がそれぞれバラバラであるよりは、確実に成長しているのは明らかですから」  しかし「確実に成長」と松井市長が言っても「2011年~16年の年平均成長率は0.58%」で非常に少なく(掲げた目標は年平均2%)、大阪府よりも過疎地域を抱える全国平均よりも低い。維新府市一体行政の“バーチャル都構想”の効果が出てないとしか読み取れないのだ。  このことを再び指摘すると、松井市長は「だから、どういう基準で数字が表れたのかを1回ちょっと検証します」と答えた。次の機会に検証結果の説明を聞けるということだ。  政令指定都市から特別区への“格下げ”はいくつものデメリットを伴うが、それを上回る二重行政解消のメリットは本当にあるのだろうか。初の「政令指定都市廃止」となる都構想への賛否は、“バーチャル都構想”の効果の有無をどう判断するのかにもかかっているのだ。今後の両者の論戦が注目される。 <文・写真/横田一>
ジャーナリスト。8月7日に新刊『仮面 虚飾の女帝・小池百合子』(扶桑社)を刊行。他に、小泉純一郎元首相の「原発ゼロ」に関する発言をまとめた『黙って寝てはいられない』(小泉純一郎/談、吉原毅/編)の編集協力、『検証・小池都政』(緑風出版)など著書多数
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仮面 虚飾の女帝・小池百合子

都民のためでも、国民のためでもない、すべては「自分ファースト」だ

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