「日本学術会議任命拒否問題」、たった一つの論点。これさえ読めばデマや論点そらしには惑わされない

菅義偉

自民党役員会に臨む(左から)二階俊博幹事長、菅義偉首相、佐藤勉総務会長(時事通信社)

 今話題になっている日本学術会議で、6名の研究者が任命されなかった問題についてお話します。

日本学術会議とはなにか

 そもそも日本学術会議とは何か、という話なんですが、これは、別名「科学者の国会」ともいわれていまして、科学者の内外に対する代表機関です。  もともとは修士号以上を持っている方がそれぞれ選挙を行ってメンバーを選んでいたんですが、中曽根康弘総理の時代に、今のように「学術会議の会員・連携会員が推薦し、内閣が任命する」形でメンバーが互選で選ばれるようになりました。 〈自主的選出「変わらない」/学術会議会員の公選制廃止時/83年政府文書で明確|しんぶん赤旗〉  各国にこういったアカデミーはあります。  イギリスには王立協会。ロバート・フックがニュートンをいじめたり、その後ニュートンが会長になったりしたのが有名です。  アメリカには米国科学アカデミー。ドイツにはドイツ科学アカデミー。  内閣府の2015年の有識者会議向けの資料があるんですが、王立協会は7000万ポンドの予算で約7割が議会からの助成全米科学アカデミーは予算が2億ドルで、8割が連邦政府からの支出ドイツは9000万ユーロで全額公費、という感じです。  学術会議は、公的機関というたてつけで、全額公費で賄われ、予算は10億円。こうして比較すると、年代の違いはありますがそこまで公費支出が違うわけではありません。  一部で混同されて批判されていましたが、日本学士院というのもあります。  学士院はどちらかというと殿堂というか、名誉職的な側面があります。所属されている方は終身で、年金も出るのですが、自然科学でいえば、本当にノーベル賞級の方ばかりです。  例えばノーベル物理学賞の江崎玲於奈さんとか、IPS細胞の山中伸弥さんとか、そういった日本の発展、ひいては科学技術の発展に貢献した方々が生活に困らないよう、国家として年金をお送りしてるわけですね。ですので、学士院ではなく、日本学術会議がアカデミーの役割を実質的に果たしています。  日本学術会議はいわゆる理系だけではなく、文系の方も多い訳ですが、今回は主に政治学系、人文科学系の方がある種狙い撃ちに合ったわけです。  内閣に任命拒否された6名の方をご紹介します。 京都大学教授で、キリスト教学者の芦名定道さん。 東京大学教授で政治思想学がご専門のの宇野重規さん。 早稲田大学大学院教授で、行政法がご専門の岡田正則さん。 東京慈恵会医科大教授で、憲法学者の小沢隆一さん。 東京大学大学院教授で、歴史学者の加藤陽子さん。 立命館大学大学院教授で、刑法がご専門の松宮孝明さん。  私が最初に加藤陽子さんが拒否された、という名前を聞いたとき、加藤さんは新潮社から『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』というベストセラーを出版されていて、おそらく政治史という意味で日本で最も有名な方の1人だと思いますので、とても驚きました。  宇野さんも保守思想や政治思想を学ぶ上では避けて通れない方ですから、驚きました。6人の方は、それぞれの分野での第一人者と言っていいと思います。つまり、学術的な実績や能力で拒否された、とは到底言えないわけです。  今回、何が問題なのかというと、いろいろ学問の自由とか、学術会議がなんなのかみたいな話も出てるんですが、実は問題は一点しかないんですね。

日本学術会議法との適法性

 日本学術会議法にこういう条文があります。 ”日本学術会議法 第七条  会員は、第十七条の規定による推薦に基づいて、内閣総理大臣が任命する。 ”  この「推薦に基づいて、任命する」の解釈が何なのか、という話なんです。例えば、憲法6条にこういう条文があります。 ”日本国憲法 第六条  天皇は、国会の指名に基いて、内閣総理大臣を任命する。  天皇は、内閣の指名に基いて、最高裁判所の長たる裁判官を任命する。 ”  通常、「基づいて任命する」というのに拒否権があるとすると、天皇も総理の任命を拒否できるのか?みたいな法解釈が出来てしまいます。  つまり、「推薦に基づいて」というのは、その推薦をそのまま丸呑みする、推薦された人を全員任命することを前提に行われているわけです。  当たり前ですが、推薦に基づいて、ですので、定員を埋めるために他の人を勝手に任命することはもちろん内閣には出来ません。  ですので、仮に内閣が任命拒否する権能があると仮定すると、極論すると1人だけ残して後全員任命拒否したら、学術会議はたった1人だけの機関になってしまいます。  先程中曽根康弘総理時代に学術会議の方式が変わったという話があったのですが、法改正当時に中曽根総理がおっしゃっていることでもあります。
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中曽根政権時代に総理答弁で明確に独立性を答弁していた
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