上京して5年、300人もの女性と性交渉を持つに至った江田さん。「好きに女を抱ける」というのは男性なら一度は夢見ることかもしれないが……それでも、彼はまだ幸せを感じることができない、と苦笑いした。
「マッチングアプリで多くの女性に出会って、女性から好かれるコツや、ヤれる空気の作り方は上手くなりました。でも……ネット出会いの楽しさの上限はもう知ってしまったし、それでは満足できなかったんです。ネットで際限なく出会っているうちはずっと『もっといいコがいるんじゃないか』と上ばかり見てしまう。けれど、自分で手に届くギリギリ限界の女性はもう抱いてしまっていて、しかもそいういう女性たちをたくさん逃してしまっていた、と気づいた今ではもうあとの祭りです。
今になって振り返ってみるといいコだったコ、可愛かったコ。ネットで次から次へと出会っているうちは本命にしようと思えなかったけれど、自分のレベルでは自分が本当にかわいいと思うコとは付き合えないことも分かった。頭打ちを知ってしまったんです」
経験人数が300人を越えて、江田さんは今「ヤリチンな自分に疲れてしまった」と語る。傍目に見ても、300人もの女性を抱いてもまだ刺激を求めてしまう様子は、例えばドラッグ中毒に近いような状態に見える。刺激を追い求める暮らしは、体力も時間も金も消耗する。
「もうこれ以上やっても、同じことの繰り返しなんです。『めっちゃ美人だな』と思うコを、その日落として一発抱く。この瞬間が一番気持ちいいけど、ただそれだけ。今は、もう落ち着きたい、次のステップに行って結婚したいなとも思っているんですが……女遊びを辞めるのにも禁煙と同じように禁断症状のようなものがあって、少しづつ頻度を減らしていくしかないな、という感じです。
なので今は、仕事を頑張ってみています。年収は少しづつ上がっていて今800万円ほどですが、年収が上がっても、抱ける女のレベルも付き合えそうな女性のレベルも、正直あまり変わらないなという実感です」
結婚できる相手を見つけたくても、長年の女遊びによる理想の高さが邪魔をし、なかなか女性を好きになることができなくなってしまったという。女性に対してどう振る舞えばモテるかは分かっていて、自分が女性を楽しませることはできても、自分が楽しいと思える人はいない。「竿モテ」の蟻地獄のような場所に、江田さんはハマってしまっていた。
「今は漠然と、不特定多数にモテたいとは思わないようになりました。コロナの自粛期間のせいもあったかもしれませんね。一人の時間が増えて、寂しくて適当な女性を召喚したりしていたけれど、やっぱり心の余白は適当な女じゃ埋まらなかった。
有り余る時間の中で自分の人生と向き合ってみた時に、自分より大切と思える人に出会いたいなと思ったんです。したい仕事をして、お金も困らない程度あって、フリーだから好きに女遊びをして……一人の生活は満ち足りているのに、それでも物足りない感覚があって。それは大切な人がいないからかも、と思うんです。
週末ごとに女性と会っていると、女性のダメな部分もたくさん知るんですよ。ドタキャンなんてザラだし、思わせぶりされて振られることもあるけど、感覚が麻痺していて『まあこんなもんか』と思ってしまう。どんどん人に期待しなくなっていくうちに、人をどうやって好きになるかも分からなくなってしまった」
有り余る女を抱けたとしても、結局自分が満足できなければ幸せとは言えない。セックスばかりを幾夜こなしても、彼は結局自分の魅力を女性に発見してもらえていないのだ。
その寂しさが、彼の思春期の「非モテマインド」を引きずらせてしまっているようだった。女で遊んでいるようで、自分で上手くコントロールできていない人生。これが「モテ」に捕らわれた男の末路なのである。
<取材・文/ミクニシオリ>
1992年生まれ・フリーライター。ファッション誌編集に携ったのち、2017年からライター・編集として独立。週刊誌やWEBメディアに恋愛考察記事を寄稿しながら、一般人取材も多く行うノンフィクションライター。ナイトワークや貧困に関する取材も多く行っている。自身のSNSでは恋愛・性愛に関するカウンセリングも行う。