一般紙から科学専門誌まで、海外メディアが報じた「日本学術会議拒否問題」。菅政権の所業はファシズムの一丁目一番地

科学と政治が一体であるワケ

 また、こうした大手メディアだけでなく、アカデミックな世界からも批判の声は噴出している。例えば、「サイエンス」は「日本の新首相が学術会議に争いを仕掛ける」と題した記事を発表した。(参照:Science) 「菅は拒否した理由を示さず、それは10月1日に会員のリストが公表されて明らかになった。内閣のスポークスマンは現地メディアに対して、首相には推薦されたメンバーを任命する義務はないと答えている。しかし、6人すべての学者が、菅が官房長官を務めていた前政権による法制を批判していた」  「ネイチャー」は、「なぜネイチャーはこれまで以上に政治を扱わなければいけないのか」という記事を発表している。同記事には、学術会議問題に限らず、「なぜ科学が政治を扱わなければいけないのか」という問いへの回答が含まれているので、余裕があればぜひ全文を読んでみてほしい。(参照:nature) 「科学と政治は常にお互い頼りあってきました。政治家の判断と行動は研究予算や課題の優先順位に影響します。同じく、科学と研究は情報提供をし、環境保全からデータ倫理まで、政策の雛形を作ります。政治家の行動は高等教育の環境にも影響します。彼らは学問の自由が支持され、各機関が平等・多様性・社会的包括のためにより厳しく働き、これまで疎外されてきた声に場を与えることを保証できます。ただ、政治家はその反対のことを行うための法律を通す力も持っています」  記事ではアメリカブラジルインドなどの例を挙げながら、菅総理のことも取り上げている。 「そして先週、日本では菅義偉首相が、過去に政府の科学政策に批判的だった6人の学者を日本学術会議に任命することを拒否した。この機関は日本の科学者たちの声を代表する独立した機関である。これは2004年に首相が推薦から任命をするようになってから初めての出来事だ」

真っ先に「インテリ」が排除されてきた歴史

 麻生太郎副総理がその手口に学ぶべきとしたナチスソ連中国といった冷戦下の共産圏の国ポル・ポト政権時のカンボジア、いずれも真っ先に行ったのはアカデミックな人材の処刑や収容だ。  困窮する庶民の暮らしを理解できず、政治家の足を引っ張る存在として「インテリ」がスケープゴートにされるのは、何も新しいことではない。問題はそうすることによって得をするのはいったい誰なのかということだ。  ただでさえ、優秀な人材が安い人件費で買い叩かれ、続々と中国や韓国、欧米諸国へと流出しているわが国。政権に対して批判的な発言をする学者は排除されるという悪評が轟けば、その流れはますます加速するだろう。  また、前出の「ネイチャー」の記事にもあるとおり、科学と研究は正しい判断をするうえでの重要な材料となる。科学という絶対的なファクト研究データではなく、政治家の個人的な判断によって政策が議論されるようであれば、それはもはや近代国家とは言えないだろう。  政治にしろ、経済にしろ、そうなることで損をするのは利権や立場を守れる政治家ではない。損をするのは我々庶民だ。「税金で食べているインテリが騒いでいる」と片付けてしまうほど、我々は愚かではないと信じたい。 <取材・文・訳/林 泰人>
ライター・編集者。日本人の父、ポーランド人の母を持つ。日本語、英語、ポーランド語のトライリンガルで西武ライオンズファン
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