前述した中国人同期とロックダウンが緩和された6月に再会した。
「今はあんまり家から出ないようにしている。コロナも怖いけど、それよりももっと他人にどうみられるかを気にしてしまう。私、ロンドンに来た時はもっとワクワクしていたし、チャレンジ精神もあったと思うのに、今は本当に辛い。中国に帰りたいけど、上海まで片道70万円もするの、もうしばらくは無理ね」と、彼女は正直な胸の内を語ってくれた。
もちろん、ロンドンという街はもともと多民族・多文化なコスモポリタンな街だ。私も当初はそれが魅力的に思い渡英を決意した。だが、人間というものは弱い生き物だ。混乱した状況下、自身の恐怖や不安感を他人に責任を被せたくなるものだ。それ故に、今回は白人社会に住む東アジア人にしわ寄せが来たのであろう。
もちろん、一連の「ブラック・ライブ・マター」運動でリベラル主義の白人(私の多くの友人を含め)、人種差別問題や白人優位主義に対して声高に発言をしている。彼らは
「白人至上主義」は精神的な話であって、肌の色の話ではない、と。
だが、それも有色人種の私たちの立場からしてみれば、彼らは肌の色で差別されることは皆無だ。
どんなに「寄り添って」もらえたとしても、同じような経験は共有できない。無論、だからと言って西洋的リベラリズムを否定するわけではないが、ここにどうしても違和感を抱かずにはいられないし、それは今後の課題だと思う。
10月に入り、気温の影響か、イギリスではまた感染者数が急激に増加し、またしても行動が制限されるようになった。6人以上の集まりは禁止、飲食店は22時まで。
マンチェスターやイギリス北部の感染者数が多い都市では、それよりも厳しい制限がかけられている。また、それを全国レベルに引き上げるかが議論されているところだ。
私と同期がよく行く大英博物館近くの小さな中華料理店はすでにこの1年で2回も窓ガラスが割られたという。また、その店のオーナーの自家用車も襲撃された、とのこと。比較的にロンドン市内の中でも治安が良いと認識していた場所であるからこそ、驚きだ。
「あなたと私はイエローシスターね」と言ってくれた中国人同期。研究も授業も全てオンラインになり、帰路に向かう同僚が多い中、彼女もなるべく早く中国に帰れることを願っている。
<文/小高麻衣子>
ロンドン大学東洋アフリカ研究学院人類学・社会学PhD在籍。ジェンダー・メディアという視点からポルノ・スタディーズを推進し、女性の性のあり方について考える若手研究者。