発病から超速で退院。プレジデント仕様のゴージャスな処方とその危険度

世界で唯一と言うべき凄い処方

 発病したばかりにもかかわらず酸素補給を必要とする状態のCOVID-19患者が、院内を歩き回ったり、ドライブしたり、治ってもいないのにたったの三日で退院し、そのうえマスクを外すパフォーマンスをするなど、トランプ氏はリアリティTVの面白おじさんとしての真骨頂を発揮しています。  普通の患者ならばおそらくとっくに重症化してICUで人工呼吸器につながれているような人が何故こんなに活発に動くことができるのか、それは世界でも類が無いスゴイ処方による投薬があると筆者は考えています。そのスーパーデラックスでゴージャスな処方は、10/4の医師団によるブリーフィングで開示されました。 ●トランプ氏に投薬されている薬 1) デキサメタゾン 安価で強力なステロイド剤で、消炎と免疫過剰反応を抑制する。COVID-19の重症且つ重大な病状の患者のみに用いる。重症患者の致命率を目に見えて下げることができる。副作用が大きく、軽症では効果はないとされる。 2)レムデシビル ウィルスの増殖を阻害する緊急承認薬で、できるだけ早期に投薬すると効果が大きく、早く退院できるようになるが、72時間退院は早すぎる。副作用が大きいとされる。5日で計5回の点滴が1セットの点滴薬である。 3)モノクローナル抗体カクテル ウィルスを攻撃する合成抗体。できるだけ早期に投薬すると効果が大きいとされるが、未承認の実験薬で、治験例も275例のみである。副作用として抗体依存性感染増強(ADE)が予想されており、致命的副作用となるために慎重に治験が進められているが、トランプ氏には発病後直ちに用いられている 4)ファモチジン  胃の薬H2ブロッカー 5)亜鉛 6)ビタミンD 7)アスピリン  解熱剤だが、血栓を抑える作用がある 8)メラトニン  弱い睡眠薬  合衆国では、COVID-19医療態勢が軽症者、中症者は入院させず自宅隔離・療養となっています。これは韓国や本邦以外の国ではたいへんに多く、家庭内感染や手遅れになって死んでしまう原因となっています。結果として本来早期に点滴せねばならないレムデシビルは、重症化してから投薬され、しかも薬が不足しているためにトランプ氏のように最適のタイミングで投薬される例は少ないとされています。そもそも点滴薬なので、自宅療養での使用には無理があります。これは本来、トランプ氏と同様に早期の治療に用いるべきものなのです。  モノクローナル抗体カクテル療法は、ファウチ博士のコメントでは、経験上、トランプ氏に最もよく効いたのではないかということです。しかし所詮は実験薬ですのでたまたま今のところ副作用が出ずに、効いているらしいと言うことに過ぎません。また投資コストは低いものの、製造コストの高さが泣き所です。リジェネロンのモノクローナル抗体カクテル実験薬は、2日にホワイトハウス内で使用が開始されています*。 〈*Donald Trump in Hospital With Covid: What Are the Medical Treatments for Virus? 2020/10/03 Bloomberg  そしてデキサメタゾンです。これに一番驚かされました。デキサメタゾンはクラシックなステロイド剤ですが、これがICUで死んでしまうような重症患者の救命率を大きく高めCOID-19の致命率を下げることに効果があると英国で報じられた後、全世界で採用が進みました。一方で軽症患者には効果がなくむしろ有害という事でトランプ氏がこれを使うということはたいへんに重い症状という事になります。WHOによれば、2週間をこえる使用は、精神錯乱を引き起こし、更に免疫の低下という重大な副作用があると報じられています*。更にサンジェイ・グプタ医学博士によれば、デキサメタゾンは、患者へ人為的にまるで病気が治ったかのような爽快感を与える向精神作用があり、患者が陽気になったり動き回ったりする重大な問題があるとのことです**。 〈*トランプ大統領にステロイド薬投与、コロナ治療で医師団が判断 2020/10/05 Bloomberg〉 〈**トランプ氏投与の「デキサメタゾン」、専門家は副作用も指摘 2020/10/06 ロイターTranscripts of New DAY 2020/10/05 CNN(サンジェイ・グプタ医学博士による治療について全体的な解説もある)〉  全体的な説明は、次の報道が詳しいです。英語ですが自動翻訳でだいたい読めます。またトランプ氏がFDAに承認を進めるように圧力を加えていたとされる抗マラリア薬のヒドロキシクロロキンは使われませんでした。 ●Dexamethasone, remdesivir, Regeneron: Trump’s Covid treatment explained 2020/10/05 BBCトランプ氏のコロナ治療、一般患者との違いは? 2020/10/07 CNN  これらのことから明らかなように、仮にトランプ氏がこのまま回復に向かったとしても、トランプ氏に使われた治療法は、地球上で唯一、合衆国の大統領だから用いたし、用いることができたもので、一般性は全くありません。CNNやBBCで医師達が口を揃えて言うのは、レムデシビルとモノクローナル抗体カクテルと、デキサメタゾンを同時に使うなどありえないという事で、ゴージャスなだけでなく危険な治療法だというものでした。本来これらのうち一つだけ使うものであり、こんなに凄く珍しい臨床例はないと、皆さんトランプ氏の臨床事例論文を待望しています。

トランプ氏の行動がおかしくないか?

 このトランプ氏への処方についての情報公開ののち、トランプ氏のツイートをみると通常と前々異なるツイートが多数なされています。入院直後からCNNでもいつもとツイートの雰囲気が異なると話題になっていました。  よく見るとデキサメタゾン投与前にトランプ氏は、余りツイートをしておらず、10/3に至っては寝る前の1ツイートのみです。デキサメタゾンを投与開始したとされる10/4以降、ツイートが再開され、だんだんマシンガンのように増えて、内容もおかしくなっています。  ほかにも、「20年前よりも調子が良い」などの妙にゴキゲンな発言がたいへんに多く、4日日曜日の突然のドライブなど、ハイな気分の行動がやたら目に付きとても不安になります*。本当に体が急速に回復しているのならば、それはとても素晴らし事ですが、実際には明らかに全身で「努力呼吸」をしているビデオメッセージなど、たいへんに不安を抱かされます。 〈*トランプは大統領に戻れる状態ではない 2020/10/05 ニューズウィーク日本版〉  更に、どう考えても自身の選挙に大きなマイナスとなる議会民主党への嫌がらせでしかない緊急経済対策協議の一方的な打ち切りなど、妙に攻撃的でハイな言動が目立ち、トランプ氏は薬(デキサメタゾン)でおかしくなっているのではないかという専門家による指摘がCNNやBBCでは相次いでいます。  トランプ氏は、世界最強の核大国における四軍の最高司令官です。そのような人物が、権限の部分的・一時的継承およびその準備をすることなくフットボール(核のボタン)を使う権限を持ち続け、薬でラリパッパだとすればそれは悪夢でしかありません。  また、欧州に続き、合衆国も遂に“秋の波”がやってきており、あちこちの州で春に生じたような「地上の地獄」が明日にでも再来したとしても不思議ではない状況です。ところがトランプ氏は、ウィルスは福音だというようなことまで語り始め合衆国市民の怒りを買っています。
合衆国と欧州に襲来した「秋の波」

合衆国と欧州に襲来した「秋の波」
Our World in DATAより

 トランプ氏の退院と共に合衆国はさらなる混沌へと向かっているようで、この先が深く憂慮されます。 ◆コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」新型コロナ感染症シリーズ29:白い家2 <文/牧田寛>
Twitter ID:@BB45_Colorado まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題について、そして2020年4月からは新型コロナウィルス・パンデミックについてのメルマガ「コロラド博士メルマガ(定期便)」好評配信中
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