2019年製造の北朝鮮現地版の大同江ビール1号と2号
北朝鮮産のビールとして知られる「
大同江ビール」は、韓国のビールよりも格段にうまいと評される。実は過去に韓国へ輸入されていた時期もあるのだ。
南北交易事業の1商品として韓国へ輸入されており、ソウルで日本人でも買うことができた。当時、韓国で出回っていた大同江ビールは、現在、販売されている瓶とは違い大瓶の上部をカットして短く加工したような500ミリリットルボトル。アルコール度数は5.5パーセントだった。
現在の現地版2号ビールのアルコール度数は4.5%、1号は4%
韓国への大同江ビール輸出は、
李明博政権のときに停止された。きっかけは、2010年3月、46人の犠牲者を出した韓国哨戒艇沈没事件(天安沈没事件)後に出された「
5.24処置」によって南北交易事業が中止されたからだ。
ソウル在住者によると、交易は止まったものの当時、稼働していた開城工場団地内のコンビニエンスストアやレストランで入手した大同江ビールが韓国へ持ち込まれて観光客向けなどに販売されていた。大同江ビールが韓国から完全に姿を消したのは、同年11月、4人の犠牲者を出した
延坪島砲撃事件。これ以降は持ち込みも厳しくなり完全に販売停止となったようだ。
大同江ビールは、韓国への輸出停止と入れ替わるように2013年ごろから中国への輸出が始まる。当初は、丹東など国境の街や北朝鮮レストラン限定だったのが、次第に販売店が増え、今では「淘宝網」などオンラインショップで普通に買うことができる。
今回の大同江ビール輸入頓挫騒動を韓国人はどう思っているのだろうか。
「若者は興味を持っていて飲みたいと言っている人もいるようですが、私の80代の祖父は青酸カリが入っている。飲むわけがないと真顔で言っています」(ソウルの30代韓国人男性)
「延坪島は仁川の沖合にあるので砲撃事件の記憶が根強くて私の回りは国民不在でドンドン進む南北融和政策に不安を感じる人は多いです」(仁川・40代韓国人男性)
仁川の男性は、日本に駐在経験があり、昨年8月から輸入がストップしている日本のビールを恋しく感じているという。彼が言うには、仮に大同江ビールが韓国で販売されてもローカルビール並の価格じゃないと誰も買わないと思うそうだ。なにしろ、今、韓国には「ギネス」や「ハイネケン」、「タイガービール」、「青島ビール」など世界中の輸入ビールが溢れているのでビール好きの選択肢は多いのだという。
ちなみに、日本は昨年7月、
大同江ビールを転売してた人物が書類送検される事件(参照:
朝日新聞)があったくらい取り締まりが厳しいので、日本より韓国のほうが大同江ビールが店頭に並ぶ日は近いのかもしれない。
<取材・文・写真/中野 鷹>