そこで藤井氏が提案するのが「
経験資源の因数分解」である。中高年で転職できた人の多くは、仕事の仕方、人との関わり方といった汎用性のある「社会人力」である
ポータブルスキルで最も得意な部分を把握することから始める。
「同業界の異職種に行く場合は『業界知識』を、異業界に行く場合は元業界の職種スキルが活用できるといった考え方です。その結果、考えつかなかった意外な求人が浮かび上がってきます」(藤井氏)
藤井氏作成データを参考に週刊SPA!編集部作成
ミドル世代専門転職コンサルタントの黒田真行氏は「ただの棚卸しでは不十分である」と話す。
「企業が採用するのは、自社で利益を出せると判断した応募者です。ゆえに求職者は、その可能性をいかにリアリティをもたせてアピールできるか。つまり
成果の再現性を具体的に伝えることが重要です」
しかし、すべての人が越境転職を実現できるとは限らないという。
「産業の中心は、自動車や銀行などの重厚長大産業の
オールドエコノミーから、GAFAに代表されるIT系のニューエコノミーに移り変わりつつありますが、近年はそれが加速しています。今まで長くオールドエコノミーにいた人が、ニューエコノミーで働ける場所があるかどうか」(黒田氏)
オールドエコノミーに残るか、ニューエコノミー側に越境するか。前者は残った椅子はどんどん少なくなるので熾烈な競争を覚悟しなければならない。一方、後者は数多くの若者が参戦するので、彼らもライバルになりうる。
ただ、年収にこだわらず自分に合った働き方を追求すればハードルは低くなるかもしれない。実際に中高年の転職で年収がアップする例は少なく、
9割が年収よりも長く働ける職を求めるという。
エン・ジャパンが約3000人に対し行った調査でも、中高年の転職で最も多い動機は「
仕事の幅を広げたい」というものだ。
「それに次いで、『会社の将来に不安を感じる』『自分の能力を生かせていないから』が多い。特にコロナ禍においては、持続可能な企業とそうでない企業の差を目の当たりにしたことなどから、多くが転職希望を強めています」(天野氏)
40代からの越境転職とは
中高年ならではの業界知識、人脈、マネジメント経験などをポータブルスキルとともに多重活用する転職。結果、未経験の業界や職種で転職が実現する例もある。どの能力が生かせるかは、どれだけ自身の実績や能力の抽象度を高められるかにかかってくる。
【天野博文氏】
エン・ジャパンが運営するミドル世代のための転職サイト「ミドルの転職」、若手ハイキャリアのための転職サイト「AMBI」を統括。
【藤井薫氏】
’88年リクルート入社。リクルートキャリアHR統括編集長。デジタルハリウッド大学などで非常勤講師も務める。著書に『
働く喜び未来のかたち』(言視舎)。
【黒田真行氏】
キャリアアドバイザー。’06~’13年、「リクナビNEXT」編集長。中高年のためのキャリア相談サービス「CanWill」を運営。著書に『
35歳からの後悔しない転職ノート』(大和書房)。
<取材・文/週刊SPA!編集部>