既に5年間キューバに戻れないでいるマノレイス・ロハス・エルナンデスがスペイン紙『
ABC』の電話インタビューに答えた内容を以下に要約することにした。そこから読者は彼らが置かれている現状をより把握できるはずである。
外傷医であり整形外科医でもあるマノレイス・ロハス・エルナンデス(37歳)は現在マイアミに住んでいる。2014年にエクアドルに派遣されて1年半そこで医療活動を行った後亡命した。以下に彼からの回答を列記する。
「自分の意志で行った。。。。実際にはキューバの経済的現状から行くのは義務のようなものだった」
「たくさんのゆすりがある。例えば、ベネズエラの場合だと誰もこのミッションでそこには行きたくない。最初の頃は事情は非常に良かった。しかし、その後状況が悪化して誰も行きたくなくなった」
「もし行かないのであればもう外国に派遣される機会に巡り合うことはなくなる。あるいは国内で辺鄙なところで家族からも遠く離れたところに送られる」
「医学部の卒業生の90%はミッションに加わることを希望している。国の状況はすべての職場で厳しくなっている。ミッションは我々にとって唯一の救いである」
「キューバから外国に出る為だった。外国に出る方が国内で魚を売る仕事や豚を飼育するよりもましだった」
「国内ではいろいろな事が語られているが、現実を知るにはそれを経験せねばならない。目的地に着くとたくさんの資金をもっているキューバ政府は我々が住む家賃を負担してくれる。私の場合は200ドルが支給された。しかし、この金額で住める場所は非常に悪い条件下のところだった」
「キューバ政府がエクアドルと契約した内容は一人の医師に対して2630ドルだった。しかし、我々が受け取る給与は僅かに700ドル。3800ドルで契約した場合の医師が受ける給与は800ドル」
また彼が説明しているように、彼らの人権が無視されている例として到着した時点でパスポートが没収される。派遣された国で国内旅行をすることも禁止されている。亡命を防ぐためである。また、現地の住民との接触もできるだけ控えるように義務づけられている。
派遣される前に、国にとって彼らの派遣が如何に大事であるかということが彼らに伝えられるそうだ。また「派遣される国の指導者も称えることも教育された。私が派遣されたエクアドルはラファエル・コレアが大統領だった」と語ったが、因みに、ラファエル・コレアは汚職による公判から逃れるために現在ベルギーに亡命している。
ベネズエラに派遣された場合は、大統領選挙で一軒一軒市民の住宅を訪問して「我々医師のサービスが受けれるのは現大統領のお陰だから彼に票を入れるように」とアピールしていくのも仕事のひとつだったそうだ。
亡命したがゆえに子供とも離れ、コロナで亡命先の職も失った
エクアドルに住んでいる時にもうキューバで生活することはできないと感じたという。というのも、「子供のヨーグルトさえもキューバにはない。このミッションが終わればキューバには戻りたくなくなっていた」と述べて、二人の幼少の子供を残しての亡命を決めるのは苦しい決断だったという。「おそらくもう二度とキューバには戻れないかもしれない」と感じたそうだ。
「子供をキューバから連れ出すことを考え続けていたが、できなかった」
「私の家族にとって精神的損害は計り知れないものだった」
娘が病気の時も入国させてくれなかったという。「短期間、母親と子供に再会しようとハバナ港に寄港するクルージングに乗船したが亡命した医師が乗船しているという理由で入港が拒否された」と語った。
一旦亡命すれば医療活動をすることは容易ではないということで見つかる仕事をして生活費を稼がねばならなくなる。しかし、「Cobid-19の影響で働いていたホテルが閉店した。また別に働いていた店も人員削減で解雇された」と言う。
「キューバ政府は我々が稼いだお金の大半を手にしていることに胸が痛む。外国に派遣されて3-4年家族から遠く離れた生活を余儀なくさせられている我々にそれに見合った報酬を支給されれば理想的だった」
彼を含め同じミッションに参加した16人の中で5人が亡命したそうだ。彼によれば、平均してミッションの30%が亡命しているという。
現在キューバの医療派遣団はおよそ3万人。世界62か国で医療活動をしている。その内の35か国からキューバ政府は外貨を稼いでいるそうだ。外貨を貰っていない国というのは非常に貧困な国に派遣しているからであるが、例えば、外貨が不足しているベネズエラでは原油を送ってその代金にしている。
世界のニュースの中でエボラやコロナの感染で派遣されたキューバ医療団が活躍していることが報じられることがあるが、そこには以上のような医師や看護師が犠牲にされていることも知っておいてほしい。
<文/白石和幸>