ICONは、「象徴的なもの」を意味する。つまり、「世界で最も影響力のある100人」の中で最も「この1年」を表すのがこの部門に選ばれた人々と言っても良いだろう。大坂なおみもこの“ICONS”に選出されている。そんな中で筆者が気になったのは
Allyson Felix(アリソン・フェリックス)と
Felipe Neto(フェリペ・ネト)だ。詳しく見ていこう。
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Allyson Felix(アリソン・フェリックス)
陸上競技選手であり、アテネ・北京・ロンドン・リオデジャネイロオリンピックで計9つのメダルを獲得した
アリソン・フェリックス。そのうち6つが金だというのだから驚きだ。そんな彼女が昨年、
妊娠した女子選手に対しスポンサー料を減らしたとしてナイキを批判し、方針を転換させたことは記憶に新しい。
「彼女が声をあげた後、ナイキは出産する選手の18カ月間の給料を守るために、出産に関する方針を転換した。だが、社会は全ての母親を守る必要があり、私たちは彼女らが生き延びるだけでなく、母親として繁栄するために、妊娠、出産、産後を通して安全で尊敬すべきケアを公平に受けられることを保証する必要がある。アリソンさん、妊娠した母親たちの権利を前に進めてくれてありがとう」と
述べたのは、Every Mother Countsの創設者であるクリスティー・ターリントン。ひとりの選手として、そして母親として、妊婦の権利を守るために戦った彼女に拍手を送りたい。
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Felipe Neto(フェリペ・ネト)
最後に紹介するのは
フェリペ・ネト。彼の職業は
YouTuberだ。その登録者数はなんと3950万人(9月25日時点)。日本のトップYouTuberであるはじめしゃちょーやHIKAKINの登録者数が900万人弱であることを知れば、いかにこの数字が驚異的かわかるはずだ。日本のインフルエンサーが政治に関する声をあげることはあまりないが、彼は「カリオカのトランプ」という異名を持つジャイル・ボルソナロ大統領の独裁政治を批判し続けている。リオデジャネイロを代表するブラジルの議員であるデイヴィッド・ミランダは
こう語る。
「2018年に極右のジャイル・ボルソナーロが大統領に選出されプロトファシストの運動が強化されたため、ネトは自身のブランドと安全を危険にさらし、人気を利用してボルソーナロの最も有力な敵の1人になった。(中略)5月にネトが出した、ボルソナーロの権威主義に対して何も言わない著名人たちを非難したビデオは、何百万人もが視聴した。7月には、彼はボルソナーロがCOVID-19の中世界で最も破壊的なリーダーとなった経緯をニューヨークタイムズの動画で詳しく説明した。ボルソナーロ一家はSNSで彼に頻繁に返信し、後に投稿を削除することもある。
(中略)フェリペ・ネトが話すとき、何百万人もが耳を傾ける。そして、彼の政治に対する声は、民主主義が危険にさらされている国に強烈に響くのだ」
またデイヴィッド・ミランダは「ネトは誤った情報を発信したこともある」と述べている。その上で、「過去のあやまちを帳消しにするのではなく、人間が成長し進化する能力を受け入れ、養うべきだ」とも話している。
毎年何かと話題になる「世界で最も影響力のある100人」。先述したように、過去には安倍晋三前首相や小池百合子都知事も選ばれているし、今年もトランプ大統領や習近平国家主席、ブラジルのジャイル・ボルソナーロ大統領も選ばれているように、その影響力の方向性もさまざまである。
とはいえ、1年間に世界で起こった出来事を総ざらいできるチャンスでもあるので、「伊藤詩織さんや大坂なおみ選手が選ばれた!」という話題だけで消費するのではなく、その他の人物にもアンテナを張っておいて損はないだろう。
<文/火野雪穂>