「安倍前首相会見後の書面回答は非公開。記者クラブには公開」現役記者らから疑問の声

現役の全国紙記者「内閣記者会が公開するようもっと抗議するべき」

 書面での質疑応答が非公開であることについて、現役記者からも不満が出ている。全国紙に在籍する中堅記者S氏は、官邸側に強く言えない記者クラブ側の弱腰ぶりを批判する。  4月の会見で司会者が「(安倍首相は)次の日程がある」と打ち切ったことから、指名されなかった記者を対象に書面による質疑応答が始まった。  官邸報道室によると、当初は書面質問した社にのみ官邸側が回答を示していたが、内閣記者会の代表者を通じて要望があったため変更。その結果、官邸内の内閣記者会掲示板に質問と回答全てが張り出されることになった。しかし記者会に所属しないフリーランスの記者は質問と回答を閲覧することができない。  内閣記者会では記者会見での質疑応答と同様、会見後に対応した書面質問と回答も公表すべきだと口頭で抗議している。しかし、その後も対応は変わっていない。  S氏は「口頭での抗議はやっただけ感を演出している。対応が変わらないのなら、なぜ出せないのか文書を出して抗議するべきだ」と指摘する。  官邸側に強く言えないのは、取材相手との付き合い方が関係している。官邸会見に出席する記者の大半は「政治部」。S氏が長く在籍した「社会部」と比べ、権力の中枢に食い込む取材が多くなる。記者自身が気づかないうちに、権力と距離を取ることが難しくなることがあるという。 「記者クラブの弊害でもありますが、『政治部』は政治家がネタ元になるから同化しやすいんです。他社よりもいち早く閣僚人事や予算案の概略を先取りすることに重きを置くため、うまく情報を流してもらいたいと飼い慣らされてしまう傾向が強いんです」(S氏)  S氏が普段あまり訪れない省庁会見に足を運ぼうとした際、現場サイドから待ったがかかったことも。下手な行動は取るなと釘をさされたのだ。 「新聞社内の部署間のしがらみが大きく関係した出来事でしたが、そもそも情報というのは誰のためにあるのか。記者会見は何のために出席するのか。取材機会が少なくなっている中で会見の重要性は増しているけれど、官邸記者クラブにいる記者からの質問には本気度を感じません!」(中堅記者S氏)

質問できるまで7年3カ月の畠山さん「多様な視点が集まることで、より有意義なものに」

 内閣記者会に所属する記者と違い、首相会見に出席したいフリーランス記者は今も抽選に当たらなければ参加できない。 「当選してもなかなか質問する機会が来ないため書面で質問ができるならありがたいと思っていました。でも、まさか自分が参加した時にはないなんて……」  開高健ノンフィクション賞受賞の『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』(集英社)などを書いた畠山理仁さんは、官邸報道室のあきれた対応を振り返る。 「4月7日の会見後に書面回答があったことを知りました。自分は抽選にハズレたけど、出席したかったから権利があると思って報道室に問い合わせました。『質問ができるのは出席者に限る』と言われました」(畠山氏)  次回の会見には抽選に当たって出席。そこで安倍前首相に直接質問することができた。2012年12月26日に第2次政権が発足してから、7年3カ月ぶりの待望の瞬間。ただ、会見で指名されたことから、規定通り書面での質問はできなかった。  5月に再び会見に臨んだ。この日は指名されなかったため、会見後に官邸報道室に書面質問をすることを相談した。  ところが、報道室からは「今回は(書面で質問したいとの)声が上がらなかったので」と断られた。  畠山さんによると、会見時間内の質疑応答では時間が足らず、質問したかったのに機会に恵まれなかった参加者は複数人いたという。報道室はそれを無視した形だ。書面での質疑応答ができるかどうかは、まるで官邸側の気分次第。場当たり的な対応だと感じた。  今後も引き続き、時間があれば首相会見に足を運ぼうと思っている。その意義について「新聞やテレビなどマスコミだけではなく、個々で興味関心が違うフリーランスやネットメディアの記者がいれば、思わぬハプニングも期待できますからね」。多様な視点が集まることでより有意義なものになると訴える。

公開しない理由は「会見ではなく、それは取材だからです」

 官邸報道室に書面での質疑応答を公開しない理由について、筆者も電話で尋ねた。  報道室からは「会見ではなく、それは取材だからです」と説明を受けた。  会見場で聞きたかったことが時間の都合で質問できなかったとしても、その後のやり取りは「取材」に当たるので公開する必要はないという。そもそも「取材」と「会見」の違いを官邸報道室ではどう考えているのか尋ねたが、それ以上の回答は得られなかった。  また、なぜ内閣記者会の掲示板に張り出すのかについて聞いてみたところ、「記者会のメンバーは皆参加しているので、参加者には共有してよいと判断した」と言われた。

菅総理初の記者会見出席の大川総裁「書面回答は今後制度として確立すべき」

大川総裁

菅総理就任初の会見に参加した大川総裁(撮影:小川裕夫)

 17日夜に行われた菅総理就任初の記者会見には、抽選に当たった大川総裁が参加した。会見中に質問できたのは幹事社(記者クラブに所属する大手報道機関の中で、官邸側との折衝を行う窓口)のNHKと西日本新聞社、新聞社2社とネットメディア1社だけだった。指名されなかった参加者が書面質問する機会は今回なかった。 「就任会見なのに質問は15分くらいで終了、深夜9時の会見だからかもしれないが、規制改革を打ち出している政権ならば書面での質問はあってもいいはず。スタッフが全て交代し、会見は慌ただしく、広報室からの会見の案内も安倍総理大臣会見としてお知らせが来ていました」(大川総裁)  書面回答はこれまで、新聞社によっては簡略化して公開しているところもある。が、全文ではない。大川総裁は「やはり、制度として確立して官邸ホームページ等で公開できるようにするべきだと思う。書面での回答は安倍前総理の突発的な対応なので今後制度として確立するべきだと思う」。新総理の対応に注目している。 <文/カイロ連>
新聞記者兼ライター。スター・ウォーズのキャラクターと、冬の必需品「ホッカイロ」をこよなく愛すことから命名。「今」話題になっていることを自分なりに深掘りします。裁判、LGBTや在日コリアンといったマイノリティ、貧困問題などに関心あります。Twitter:@hokkairo_ren
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