運ばれた後も引き続き暴力を受けているアンドレさん。どんなに痛がってもやめてくれない(アンドレさん提供)
移送されたアンドレさんは、しばらくして他の被収容者とともに、解放を求めるハンガーストライキを開始した。その報復か、仮放免が決まって保証金を支払っても、すぐ捕まるという嫌がらせを2回も受けた。ハンストに加わった他の被収容者たちも、同じような対応を受けている。
1回目はわずか2週間のみの猶予で、東京入管へ呼び出されて再収容され、すぐに牛久へ移送。しばらくしてまた仮放免となったが、わずか約3週間しか認められなかった。
3週間が経ち、決められた日に東京入管へ出頭しなければならなかったが、アンドレさんはその日、体調がすぐれなかった。電話で出頭できない旨を伝えたが、その日のうちに職員たちが家までやってきて、強制的に連れて行かれた。
2020年の2月には、とうとう帰国する決心をした。裁判が終わり次第ブラジルに帰ろうと考えた矢先、新型コロナウイルスが流行りだした。航空便がなくなり、帰国が不可能となってしまったのだ。裁判も延期になり、結局残るしかなくなってしまった。
八方ふさがりとなってひたすら苦痛の日々が続き、アンドレさんはだんだん食事がのどを通らなくなり、やせ細っていった。
それを若い常勤医に「ハンストだろう」と責め立てられ、「食べないなら差し入れも受け取らせない。シャワーも浴びさせない」と、20日間もシャワーを浴びることができないという嫌がらせを受けた。これには他の職員も、さすがに疑問を感じているといった態度をアンドレさんに見せていたらしい。
ある日、アンドレさんは常勤医に「体重計に乗れ」と命令され、拒否をした。すると複数の職員に制圧され、無理やり体重計に乗せられそうになった。その時、常勤医は「GO! GO! 制圧!」などと言い放っていたという。しかも、職員たちがアンドレさんを抑え込んでいる中、常勤医までが足をねじるように強く押さえつけてきた。
別の日には「点滴を打つ」と言って、嫌がるアンドレさんの腕を職員たちに押さえつけさせ、むりやり針を刺そうとした。あまりにも嫌がるアンドレさんを見て、職員が「今日は辞めましょう」と静止して、その場はしのぐことができた。
これに対し、牛久入管の総務課は「本人は、『GOGO制圧』なんて言っていないし、『国に帰れ』等の暴言も吐いていないと言っていました」と回答している。
アンドレさんは個人情報開示を申し入れ、職員や医者に制圧された映像の入手を試みている。それさえあれば、事実がはっきりするのではないだろうか。
その常勤医に「国に帰れ」「あなたの命は私の手の中」などの暴言を吐かれたという証言は、ほとんどの被収容者から得ている。あまりの常勤医の態度に、入管職員が被収容者に対して同情的な態度を見せることもあるらしい。
アンドレさんは仮放免が決まった時、常勤医にこう言われたという。
「これからどうするの? 国に帰るの? 帰らないならまた捕まえるよ。子供に会うの?(イラン人は犯罪者だから)イラン人とは仲良くしないでね」
アンドレさんは東京の知人の元に身を寄せることになる。帰るにも帰れない今の情況で、この先どうしていけばいいのか、判断に迷っている様子だった。まずはゆっくり休んで、傷ついた身心を癒してほしい。
<文/織田朝日>