区の福祉事務所に電話するも、待っていたのは悲惨な現実
僅かな望みをかけて区の福祉事務所に相談することを決めた田中さん。しかしそこに待ち受けていたのは悲しい結末だった。
「実は最初、直接区の福祉事務所まで行ったんですが、コロナの影響で予約がないと入れなくて。家に帰ってスマホから電話しました。声から察するに、電話に出たのは50代くらいの女性でした」
田中さんは「
電話口で声を聞いた瞬間から嫌な予感がした」と語る。何故そう感じたのだろうか。
「うーん、なんでしょうね。言葉にするのは難しいんですけど。『あ、この人は多分わかってくれないだろうな』と思いました。私が『生活保護の申請をしたいんですけど』と言うと、名前、年齢、仕事の状況を聞かれました。私が『22歳です。仕事はコロナで休業になってしまって、うつっぽい状態でもう働けません』って言うと、『一人暮らしなの?親御さんは?』って。『一人暮らしです』って答えたら、『
地元はどこなの?実家に帰れないの?』と言われました」
いきなり「親に頼りなさい」という姿勢で話す職員に辟易してしまったという田中さん。その後のやり取りはどんなものだったのだろうか。
「確かに親と話して『帰ってきなさい』と一度言われていたんです。でも私は喧嘩の絶えない実家が嫌いだったし、せっかく東京に出てきたのに簡単に地元の北海道へ帰りたくない気持ちもあって。そのことを職員さんに話しました。
そしたら『親御さんが帰ってきなさいって言ってくれてるなら帰ったら?帰りたくないって言ったって、それはあなたの感情でしょう。
家族は助け合って生きていくものですからね。とりあえず家族ともう一回相談して、もしそれでもダメならまた電話してください』と言われました。言い返す気にすらなれなくて、『わかりました』と言ってそのまま電話を切りました」
微かな希望すら絶たれてしまった田中さんは、電話を切ったあとしばらく涙が止まらなかったそうだ。
「『家族は助け合って生きていくものですからね』って、いつの時代の価値観だよって思いません?
助け合えないから生活保護を申請しようとしてるのに。他の相談者にもそういう対応してるのかな?って考えたら、私達を守ってくれるはずのセーフティネットってなんなんだろう、と思いました。それとも私が
若いからまともに話してもらえなかったんでしょうか。わかりません」
「若い=親に助けてもらえる」という一般論からこぼれ落ちてしまった若者を、最後に受け止めるセーフティネットが生活保護ではないのだろうか。最後に田中さんはこう呟いた。
「どうせ世間には『甘ったれた若い女が』と思われるんでしょうね。自業自得なのかな」
<取材・文/火野雪穂>