エリック・トレダノ監督は「本作は20歳の時に立てた誓いの結晶だ」と語っている。トレダノとオリヴィエ・ナカシュ監督が、自閉症の子どもたちや思春期の若者たちが社会へうまく馴染めるように支援する団体の創始者に出会ったのは、1994年のこと。
つまり、本作は構想およそ25年という時を経て、長編映画化が実現したのだ。さらに、監督2人はモデルとなった施設との長年の付き合いにおいて、リサーチのために週に3、4回は通って、自閉症を持つ子どもの会話を聞きながら、実際の言葉を映画で引用したりしたりもしていたという。
その経緯を得て製作され、やっと公開された『スペシャルズ!』は、フランスでの動員数は200万人を突破し、スペインのサンセバスチャン国際映画祭で観客賞に輝き、セザール賞では9部門にノミネートされるなど大評判を呼んだ。オリヴィエ・ナカシュ監督は自閉症の子どもを持つ親御さんからも、映画の反響を数多くもらったのだという。
その自閉症の子どものいる家族からは、「(映画のおかげで)周囲の人たちが私たちの家の扉をたたいてくれるようになった。声掛けもしてくれるようになった」という声も届いていたのだという。それをもって、ナカシュ監督は「自閉症の子どもたちは社会的な困難、自閉症としての困難と2つの苦労を抱えているので、家族に対して周囲の人たちの目が変わったということは、僕らにとってとてもうれしい」とも口していた。
© 2019 ADNP – TEN CINÉMA – GAUMONT – TF1 FILMS PRODUCTION – BELGA PRODUCTIONS – QUAD+TEN
この通り、本作は自閉症に対する認識を改めさせるという効果も確実にある。重度の症状を持ち、他では見捨てられた子どもでさえも、劇中の運営者や支援員は献身的にサポートしており、そして自閉症を持つ子どもたちが「できること」を探っていくのだから。彼らは決して理解ができない、ただ迷惑な存在でもない、分かり合うことができ、そしてお互いに「最良の方法」を探っていけるということも、本作では訴えられている。
しかも、この『スペシャルズ!』が公開されたことにより、本作のモデルとなった自閉症児のケア施設には、実際に認可が出たのだという。デイケアでは認可が下りやすいが、夜間のケアではなかなか認可をもらえないという実情もあったのだが、映画はそれを変えた。そして、施設でより多くの子どもたちを、しかも24時間に渡って預かることが可能になったのだ。25年という構想を経て作られた映画が、社会の認識を変え、そして施設への認可へとつながったということは、驚嘆すべき事実だ。
本作の原題である「Hors normes」の意味は「規格外」だ。オリヴィエ・ナカシュ監督によると、このタイトルをつけたのは、モデルとなった重症者も受け入れる自閉症児のケア施設も、社会からドロップアウトした若者たちを社会復帰させる団体の両方ともが無名であったこと、そして実際に監督自身が「本当にそんな団体あるの?すごい!」と驚いていたことが理由だったようだ。
© 2019 ADNP – TEN CINÉMA – GAUMONT – TF1 FILMS PRODUCTION – BELGA PRODUCTIONS – QUAD+TEN
何しろこの施設(および彼らの元へ若者を派遣する団体)は、重度の症状を持つ自閉症の子どもたちの面倒を見るだけではなくて、なかなか社会に溶け込めない若者を受け入れるという、2つの役割を果たしているのだのだから。それ以外にも、前述してきた「他人のために生きる」人々の素晴らしさと尊さは、まさに規格外のものとして映るだろう。そうであるのに無名であった施設の知名度の向上、そして社会の理解も深めたことも、本作の大きな意義だ。
そして、規格外と思えることには、もう1つある。それは、ラストシーンだ。どういうことが起こるかは書かないでおくが、自閉症を持つ子どもたちの可能性、その多様性をも表した、涙なしには観られない素晴らしい光景が、そこには広がっていた。
このラストについてナカシュ監督は、本作の「どんなに辛い状況でも、涙の裏に笑いがあった」という要素が、ここで最大に表れていると語っている。そして、同時にこのラストは“闘い”も示しているという。「ラストではすべての登場人物の闘いを投影している。彼らの闘いとは、弱者の支援を第一に考え、絶対に目を背けずに関わっていくということだ」、と。
この“闘い”の物語そのもの、涙の裏に笑いがあるということ、それを最大限に表現した演出……全てが結集したラストの規格外の感動を、ぜひスクリーンで見届けてほしい。
<文/ヒナタカ>