貧困、DV、虐待……スケボー少年たちを通してアメリカの今を描く『行き止まりの世界に生まれて』

© 2018 Minding the Gap LLC. All Rights Reserved.
スケートボードを頼りに生きる3人

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カメラに映し出される不幸の連鎖
父親の死後、父親の想いや彼を失ったことの大きさに気付き、過去の態度を悔いるキアーの無念は、カメラを通じてヒリヒリと伝わってくる。
23歳のザックは、21歳の恋人のニナとの間に子どもができるが、子育ての役割分担でニナと揉めてばかり。そして、カメラは眉の脇の傷跡と共にザックから受けた暴力を告白するニナを映し出す。家庭不和ゆえに愛情に飢えていた幼少期を振り返るニナ。
一方、ザックも2歳の時に母親が家を出て行き、不安定な環境の中、父の義母に対する暴力を見て育った過去を語る。ザックは自分をコントロールできずにアルコールに手を出していた。二人はやがて別居し、ニナは叔母夫婦の家で子育てを始めるが、彼女は皮肉にもそこで初めて「家庭の温かさ」を味わうのだった。
そして、ビンは自らにもカメラを向け、疎遠だった母にインタビューを行う様子を撮影する。ビンが8歳の時、ビンを連れてロックフォードに来た母親は、身体的にも精神的にも暴力をふるう男と再婚。母親は夫に首を絞められて警察沙汰になった過去を語り、ビンや義弟のケントも思い出すと震えが止まらない程の暴力を振り返る。自分たちに対する暴力を知っていたのかと問いただすビン監督に対して、母親は涙ながらに答える。
「彼が陰でそこまでひどいことをしていたとは知らなかった。やり直したい。」
そして、「自分は両親のケンカを見て育ったから結婚したくなかった。でも、そうはならなかった。子どもが欲しかったし、1人はイヤ」と続けた。
夫やパートナーによる暴力に対して、ビンの母親もニナも声を上げようとはしない。理由は様々だが、共通するのは「(夫やパートナーは)優しい時もある」「自分が我慢すればいい」「ひとりが怖い」というものだった。ひとりでは経済的に自立できないということもあるだろう。
では、人はどのようにしてこの不幸の連鎖から抜け出せるのであろうか。本作を見て感じたのは、自分を客観視することの大切さだった。
ビン監督にカメラを向けられた登場人物たちは、自分の育って来た環境を時に悔しそうに、そして涙ながらに振り返る。その行為自体は見ているこちらも苦しくなるほどの残酷さを伴うものだ。
しかし、彼らは過去に向き合った後、過去から続く今の自分が何をなすべきかを見つけている。キアーはビン監督の撮影を「無料セラピー」と呼んだ。そして、ビン監督自身もこの映画で過去と決別しようとしていることがわかる。
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