撤退ではなく「コロナ後」を見据えたリニューアルに挑む百貨店も
そうしたなか、あえてこの時期に「撤退」ではなく「
店舗の全面リニューアル」を選んだ地方の百貨店がある。それは、愛媛県松山市の中心部にある「
松山三越」だ。
松山三越は1946年10月に松山市初の大手百貨店として開店。現在の店舗は1991年に建設されたもので、連絡通路でシティホテル「ANAクラウンプラザホテル松山」内の商業施設「ファッションタウンアヴァ」(BEAMS、DIESELなどが出店)と接続されている。店舗面積は21,420㎡で、建物は松山三越(自社)が所有する。
松山三越(改装前)
松山市の百貨店は、地元私鉄・伊予鉄道の子会社で大手百貨店・高島屋と提携する「
いよてつ高島屋」(店舗面積39,180㎡、旧・いよてつそごう)が地域一番店で、松山三越は二番店。両店はともに大手百貨店であり、とくに百貨店系アパレルは重複するブランドが数多くあった。
そのため、いよてつ高島屋の約半分の面積である松山三越は、とくにアパレルに関しては「高島屋のミニ版」といった品揃えであり、2010年に三越伊勢丹から分社化されて以降10年連続の赤字。バブル期に設計されたという三越らしい豪華な建物は、とくに平日は少し淋しい雰囲気であった。そうしたなかの新型コロナ禍は経営を直撃。同店の不振は地元でも広く知られていたため「これを機に撤退するのではないか」との声も上がっていたほどだった。
松山三越の館内。三越らしい豪華な内装が特徴であったが、平日は閑散としていることも。(提供:昭和なスーパーめぐり)
松山三越のライバル・いよてつ高島屋。
伊予鉄松山市駅の駅ビルで、四国最大の百貨店。
東急ハンズや紀伊國屋書店も出店しており幅広い世代が訪れる同店に対し、三越は後塵を拝していた。
しかし、コロナ禍のなか松山三越が打ち出したのは「撤退」ではなく、
コロナ後を見据えた「全館リニューアル」だった。
今回のリニューアルには、道後温泉で旅館を運営する「茶玻瑠」「古湧園」、不動産店やホテルを運営する「三福ホールディングス」、飲食店を運営する「タケシカンパニー」など愛媛県内の地元企業が参画。アパレルの売場は大きく圧縮され、「地元民の声」と「地元企業の力」を活かすかたちで、瀬戸内の旬の食を扱う「フードホール」や「地産地消マルシェ」を設けて土産品やスイーツ、グルメを充実させるほか、ヘルスケア関連の店舗を誘致。さらに、7階・8階は松山市の一等地という地の利を武器にして地元企業とダッグを組んだ宿泊施設を出店させる計画だ。工事は9月から始まっており、客が少ないコロナ禍のなかリニューアルを進めて、来年秋のグランドオープンをめざすとしている。
松山三越の店頭にかかげられた改装告知。(提供:昭和なスーパーめぐり)
松山三越によると、今回の改装は「地元客と観光客の双方をターゲットとしたもの」だという。同社の社長は「選択肢は(店を)閉めるか(改装を)やるか」であったと述べており、コロナ禍のなか「縮小」するのではなく、いち早く「コロナ後」を見据えた改装をおこなうことを決めた同店の動きに業界の注目が集まっている。
百貨店の「脱・老舗アパレル依存」、コロナ禍で進むか
松山三越以外の地方の百貨店でも、少しずつではあるが撤退したテナントの跡地利用が進みつつある百貨店もみられる。
例えば、先述の高知大丸では県内にアトリエを持つオリジナル婦人服工房「手作り工房 浪漫堂」や、兵庫県の建築事務所が運営するライフスタイル提案型のインテリアセレクトショップ「Kerry’s Living(ケリーズリビング)」が新たに出店するなど、「百貨店向けテナント」にこだわらず、地方の企業が運営する個性的な店舗を誘致した例もあるほか、地場企業が運営する地方百貨店では、人気の季節商品をセレクトした百貨店独自の自主編集売場や、(暫定的な活用かも知れないが)新たにアウトレット的な売場を設けた例もみられる。
もっとも、この夏に店舗整理をおこなった老舗アパレル各社の店舗はバブル期まで百貨店業界成長の一翼を担っていたものの、近年は百貨店における「業態不振」の象徴的存在となっていた。
松山三越以外にも、コロナ禍を機にテナント構成を大きく変え、「脱・老舗アパレル依存」を図ることで客層の拡大を目指した意欲的な改装をおこなう百貨店も出てくるであろう。
老舗アパレルの呪縛から解き放たれた百貨店の、「コロナ禍」後の新たな姿に期待したい。
コロナ禍のなか全館改装を進める松山三越。これに続く百貨店は現れるのだろうか。(提供:昭和なスーパーめぐり、2020年9月撮影)
<取材・文・撮影/若杉優貴(都市商業研究所)>