ここで東野さんの書籍を参考に、産後の女性の変化を医学的に見ていこう。
妊娠中の女性の体内では、エストロゲンというホルモンがたくさん分泌される。これにより乳房が大きくなったり、お尻周りに皮下脂肪がついたりして、女性は出産に備えた体つきになる。
だがエストロゲンの分泌量は、産後急激に低下する。エストロゲンの減少は不安や不眠の原因となるため、産後まもない女性は気持ちが不安定になってしまうことがある。これを、「マタニティブルーズ」と呼ぶ。出産2~3日前から産後3日以内に起こりやすい症状だが、通常は2週間ほどで自然とおさまる。しかし2週間以上にわたって続く場合には産後うつの可能性が考えられる。
産後うつとは、出産後1~2週間から数か月の間に発症するうつ病のこと。産後女性のおよそ10人に1人が発症すると言われている。国立成育医療研究センターが2018年に発表した成育研究所調査では、2015~2016年の2年間に死亡した妊産婦の死亡原因のトップが自殺というショッキングな事実が示されている。自殺に至らなくとも、育児によるストレスが溜まることで虐待のリスクもある。事態は深刻なのだ。
産後のホルモンバランスの変化や孤立育児は、女性が子育てで追い詰められやすい環境を作り上げる。こうした中、女性にとって強い味方は、一緒に住んでいる夫のはずだ。
だが妊娠と出産によって母親になっていく女性と違い、男性は自分から積極的にならない限り、自然と父親になることは難しい。具体的に男性は、どんなことをに気を付ければよいのだろうか。
「夫に必要なのは、妻を観察することです。お母さんたちが直面する子育て環境は、なかなかに過酷です。そんな中、奥さんは自分から『きつい』と言う余裕すらないかもしれません。男性は『言ってくれれば、やったのに』と指示待ちになるのではなく、奥さんの様子を見て今自分が何をすべきかわかるようになるのが理想です。
男性だと社会的地位を求めるのは自然なことだと思います。でも家事や育児も仕事と同様に重要なミッションなんです。ですから私は男性に『奥さんには、あなたしかいないんですよ』と伝え、チームの一員としての自覚を持ってもらうよう、促します」
産後は夫が妻を思いやり、子育てという一大プロジェクトに取り組むチームとしての基盤を築く重要な時期だ。
冒頭で紹介したベネッセ教育総合研究所の調査によると、子どもが生まれても「夫を愛している」と答えた女性ほど、「夫は家族と一緒に過ごす時間を努力して作っている」や「夫は私の仕事、家事、子育てをよく労ってくれる」と感じている割合が高い。良好な夫婦仲を保てるかどうかは、夫の行動にかかっている。