果物ロゴを攻撃するApple!? なぜアップル社は似ても似つかぬ梨ロゴの会社を訴えたのか

アップルのリンゴアイコンへの異常な愛情

 IT業界では、Apple と Apple の訴訟は有名だ。ビートルズ の Apple Corps と、コンピューターメーカーの Apple Computer(現 Apple)の、1978年から2006年にわたって数度おこなわれた訴訟だ(参照:Low End MacBBC NEWS)。  Apple Corps は、1968年にビートルズによる節税対策の会社として設立された。当初は出版や映画など、多くの事業を目指していたが、レコードレーベルの会社として落ち着いた。Apple Computer は、1976年に創業した。同社は、今では世界を席巻しているIT企業になっている。  1978年、Apple Corps は商標違反で Apple Computer を訴えた。訴訟は1981年11月に和解し、Apple Computer は音楽業界に参入しないことに同意した。しかし、その後コンピューターは、マルチメディアを扱うようになる。コンピューター業界と音楽業界の境目はどんどん曖昧になっていった。  Apple Computer は、1980年代の半ばまでにサウンド機能を備えたコンピューターの開発を開始した。そして1987年には、制限の少ない新しい商標契約の交渉を試みた。しかし交渉は決裂する。Apple Computer は、1988年にはMIDI機能を追加した。1989年、Apple Corps は、当初の合意に違反したという理由で、Apple Computer を訴えた。  訴訟は、1991年10月に和解に達した。Apple Computer が Apple Corps に金銭を支払った上で、コンピュータやその付属機器や周辺機器、ソフトウェアを販売する上で、Apple の名前を使用する許可を受けた。しかし Apple Corps は、主なコンテンツが音楽である創造的作品を販売する権利は保留した。  この取り決めのおかげで Apple Computer は、自社の名前を冠して、コンピューターでマルチメディアを扱えるようになった。しかし、これで終わりにならなかった。さらなる衝突を、Apple Computer は経験することになる。  2003年9月、Apple Corps は、ふたたび Apple Computer を訴えた。2003年4月に開始した iTunes Music Store が、契約違反だと判断したからだ。iTunes Music Store は、音楽を販売するサイトだ。裁判の結果、Apple Computer は勝利した。2社の関係はこのような状態だったために、iTunes Music Store にビートルズの楽曲がない、ということは当時よく目にする話題になった。  この2社の関係は、2007年に進展する。この年の1月、Macworld Expoの基調講演で、スティーブ・ジョブズが、ビートルズの楽曲を用いた。このことから、関係改善があったのではという憶測が流れた。同社は、同年1月に、Computer を社名から取り除いて、Apple に改名した。  Apple Corps との関係は、2月にアクロバティックな解決を見る。2社は和解し、1991年の契約は大きく変わる。新しい契約では Apple社が Apple の商標のすべての権利を所有し、Apple Corps にライセンスするという形なった。主客が逆転して、Apple という商標の権利を、今や世界的大企業となった Apple が独占することになった(参照:ITmedia NEWS)。  Apple という会社が、りんごのアイコンに異常な愛情を注ぐのは、こうした訴訟を経験してきた背景があるのかもしれない。

大企業がおこなう訴訟による圧力

 訴訟には時間も費用も掛かる。規模が大きく体力のある会社ならば、専任の担当者がついて弁護士も多く雇うことができる。しかし、規模が小さく体力のない会社ならば、業務を著しく圧迫し、弁護士を雇う費用の捻出にも苦労する。その結果、大企業は訴訟をちらつかせるだけで、周囲を威圧して黙らせることができる。  こうした構造は、SLAPP(Strategic Lawsuit Against Public Participation)訴訟にも通じる。この言葉は、市民活動家やジャーナリストなどを排除する目的のもので、そのまま訳すと「市民参加を排除するための戦略的訴訟」になる。しかし、その目的からSLAPP訴訟は、恫喝訴訟、嫌がらせ訴訟とも呼ばれる(参照:コトバンク)。  経済的に優位な者が、そうでない者に圧力をかけて、自身の意見を通す。そうした行為と取られかねない、Apple の Prepear への訴えに対して、Change.org を見る限り、反発を感じている人は多いようだ。 <文/柳井政和>
やない まさかず。クロノス・クラウン合同会社の代表社員。ゲームやアプリの開発、プログラミング系技術書や記事、マンガの執筆をおこなう。2001年オンラインソフト大賞に入賞した『めもりーくりーなー』は、累計500万ダウンロード以上。2016年、第23回松本清張賞応募作『バックドア』が最終候補となり、改題した『裏切りのプログラム ハッカー探偵 鹿敷堂桂馬』にて文藝春秋から小説家デビュー。近著は新潮社『レトロゲームファクトリー』。2019年12月に Nintendo Switch で、個人で開発した『Little Bit War(リトルビットウォー)』を出した。2021年2月には、SBクリエイティブから『JavaScript[完全]入門』が出版される。
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