Twitter がサービスを開始したのは、こうしたWeb2.0の狂騒が真っ盛りだった
2006年3月だ。このサービスは、ポッドキャスティング(音声ブログ的なサービス)会社
Odeo の役員が主催するブレインストーミングから誕生した。前年の6月には、Apple が、iTunesのポッドキャスティングを発表して、Odeo の未来は閉ざされていた。そうした時期に、Twitter は産み出され、その後世界を席巻することになる(参照:
TheStreet、
ソーシャルメディアラボ)。
Twitter は、この時期の多くの企業と同様に、Web API を公開した。そして Twitter API は開発者たちの心に刺さった。その結果、開発者たちは、多くの Twitter クライアント(Twitterを閲覧出来るアプリケーション)を産み出した。
それまでネット上の情報は、Webブラウザを開いて、そのURLを見に行くものだった。しかし、公開された Twitter API と、開発者たちが作った Twitter クライアントは、その習慣を変えた。常時起動しっぱなしのアプリケーションで、リアルタイムに世界中の人々のつぶやきを目にしながら生活する。そうした新しいライフスタイルを産み出した。
開発者たちが作ったのは、Twitter クライアントだけではない。多くの情報を自動でつぶやく
bot と呼ばれるプログラムが作られた。有用な情報をつぶやく bot だけでなく、面白い情報、楽しい情報をつぶやく bot も登場した。多くの人たちが、Twitterを通して情報を得るようになった。この方面でも、新しいライフスタイルが誕生した。
ライフスタイルになったサービスは人々を魅了する。Twitter のユーザーは増え続けた。この頃の Twitter と外部の開発者たちは、良好な関係を維持していた。全てが順調に見えた。しかし、1つだけ大きな問題があった。
どれだけ利用者が増えても、Twitter にはお金が入ってこなかったことだ。
Twitter API は無料で提供されていた。サービスを提供する計算リソースや通信リソースは Twitter が負担していた。Twitter はタイムラインに流す広告で収益化を目指していた。しかし、開発者たちが作った Twitter クライアントは、表示できるツイートを自由に取捨選択できる。そのために広告事業と相性が悪かった。
2012年に Twitter は、
Twitter API の1.1を発表した。その内容に、Twitterの発展の原動力になっていた外部開発者たちは失望や絶望を表した。
APIの利用が厳しくなった。中でも破壊的な衝撃を持っていたのは、
アプリケーション当たりのユーザー数の制限だ。1クライアントあたり、10万ユーザーが限度となった。Twitter クライアントを自分で作っても、人気が出ればユーザー数に制限が加えられる。既存のクライアントには、わずかな抜け道が用意されていたが、新たに開発する気にはなれない。この制限のせいで、多くの開発者が Twitterクライアントの開発中止を発表した(参照:
ITmedia NEWS、
ITmedia NEWS)。
その後も、外部の Twitter クライアントを追い出す施策は続いた。Twitter のタイムラインが次々と表示される User Streams や Site Streams などのAPI機能が、2018年8月に廃止された(参照:
窓の杜)。
この廃止の1年前に Twitter は、「当社とアプリ開発者との関係はいつの間にか少し複雑になってしまった。この関係をリセットし、常に学ぶ姿勢を忘れずに、人々の意見に耳を傾け、気持ちを新たに再スタートしたい」と発表していた。サードパーティー開発者の信頼回復を目指したいという宣言は、
たった1年で裏切られることになった(参照:
ITmedia NEWS)。
開発者の多くは、Twitter がおこなってきた、こうした
ハシゴ外しを見て来たために、Twitter のことをあまり信用していない。Twitter 利用者の多くは、
一部の思想に偏ったヘイトスピーチの放置などで、Twitter に対する信頼感が著しく低い。こうした感情とは別に、開発者は Twitter に対する冷めた視線を持つ人が多い。
Twitter は7月に Twitter API の2.0を公開した。このことと関係があるのかは不明だが、Twitterのサードパーティー製クライアント「
Janetter」が不具合のため利用できなくなったとうニュースが流れてきた。開発用のアカウントが凍結されたそうだ(参照:
ねとらぼ)。
同様の不具合は、他の Twitterクライアントでも起きている。こうしたことが頻発するとユーザーは「外部の Twitterクライアントは安定して使用できない」と判断して離れていく。Twitter は、その結果、自社のクライアントに誘導できるかもしれない。しかし、
開発者コミュニティの失望はさらに強まるだろう。
営利企業であるのだから、自社の利益のために動くことは非難されることではない。しかし利益とは別に、
信頼という価値も存在する。利益と信頼を両立するのは難しいのだろう。だが、大きな影響力を持つ企業は、信頼という面にも目を向けて欲しいと思う。
<文/柳井政和>