コロナ禍で浮き彫りになった医療・福祉・物流の重要性。これらの仕事はなぜ低賃金のままなのか?

感謝はされても待遇は改善しないエッセンシャルワーカー

医療 感染者は世界で2000万人以上となり、収束の兆しも見えないコロナ。この状況のなか、社会を維持するために働く必要のある、医療、福祉、物流などに携わる労働者たちを「エッセンシャルワーカー」として、その労働の重要さが強調されつつある。その数は内閣官房による「緊急事態宣言時に事業継続が求められる」労働者数だけでみても2725万人に上るという(※1)。だが一方で彼/彼女らの待遇や賃金が低く抑えられていることもまた周知の事実だ。  医療関係者に感謝、ということで金曜日正午に1分間拍手をする「フライデーオベーション」を自治体が行なったり、航空自衛隊のブルーインパルスが東京上空を飛んだりする一方で、イギリスやアメリカと違い日本の最低賃金は上がらない。そうでなくとも、医療関係者の待遇を向上させることに反対する人などいないはずなのだが、実質的な待遇の改善ではなく、賞賛のみが与えられる。古いドラマのセリフではあるが、「同情するなら金をくれ」を地でいく状況だ。  言うだけならタダ、という言葉もある。「エッセンシャルワーカー」に対する単なる賞賛じゃなくて、なぜ「エッセンシャル」な人々の労働の待遇が良くないのか?ということを考えてみたって良い。 (※1)「エッセンシャルワーカーは約2725万人、交通物流230万人、宿泊業64万人」

重要なのに低賃金・低処遇の労働

 エッセンシャルワーカーとして一方で称揚されながら、実際にはなぜ低賃金・低待遇で働かされているのか。しかし、これ、実は「主婦」の労働と似通ったところがあるんじゃなかろうか。世界を維持するための重要な労働を行うことが低賃金・低待遇であることと、炊事に掃除や洗濯、育児と、それぞれが重要なことなのにこういった労働が賃労働よりも地位が低い、というのと同じだ。  主婦の労働は時折、何かのタイミングで褒められるけれど、根本的には賃労働よりもその地位が低い。エッセンシャルワーカーの地位の低さは、家庭において「主婦」の労働が本質的には労働とみなされないことと軌を一にしているのである。ちなみに、「主婦」というとミドルクラス以上の専業主婦を連想しがちだけれども、そうではなく、この場合は配偶者の有無にかかわらず、賃労働をしながら家事もこなすようなありふれた女性だと思ってほしい。
次のページ 
資本主義が依拠する主婦の「労働」
1
2
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会