また、バイェルスキ氏の言うとおり、選手たちのカリスマ性も観るものを惹きつける。命知らずな競技だけに、
ファンからはロックスターのような存在として崇められているのだ。
「選手は相当『
ワル』だよ。
指の骨が折れていたりしても、平気で出場するしね。ただ、
“怖がること”はスゴく大事だ。自分のできること、できないことをしっかり理解したうえで、
どこまでが限界なのか見極めなきゃいけない。スゴく集中力が必要になるよ」
意外にも、選手にとっては
技術的な面よりも精神面が重要になるのだという。
「多くのレースは1分間で終わってしまうからね。
技術的なことは練習をとおして、体に染みついているんだ。走っている間はものすごく長く感じるけど、バイクの走行テクニックなどについて考えることはないね」
当然、
個人とチーム戦でもスピードウェイは大きく変わってくる。チーム戦では相手選手をブロックしつつ、味方の選手にコースを作るといった
戦術が重要となる。そして、ここでも
心技体の「心」が勝敗を左右する。
「言ったとおり、スピードウェイで重要になるのは、
トラックの作り方と
スタートだ。だから、
選手、監督、スタッフ間の意思疎通が重要になってくる。俺は選手同士で話し合わせて、自分からは選手が『聞きたいこと』を話すことが多い。まったく
バラバラな人間が集まって、好き勝手言うのに、
最初にクビになるのは監督だからな(笑)」
そう冗談めかすバイェルスキ氏だが、スタジアムを包むエンジン音のなかでも、「
ファンの応援や野次は聞こえるし、選手に届いている」と語るように、スピードウェイとは
単にマシンの性能だけで決まるスポーツではないのである。
「俺が思う美しい・理想のスピードウェイは、
4周ずっと『戦える』スピードウェイだ。スタートが一番大事だと言ったが、たとえビリでも、
レースのなかで戦いがあり、チャレンジすることが大事なんだ」
もし
日本のマシンや選手がいれば、「是非試してみたい」と話すバイェルスキ氏。アパトルのホームタウンである
トルンには、日本からの観光客も多く訪れるだけに、いつか日ポがスピードウェイを通して繋がる日が来るかもしれない。
「今はエクストラ・クラサから一部に落ちちまったけど、もし
トルンに来る機会があれば、日本の人にも是非応援に来てほしいよ」
現在、
リーグ戦無敗を続けているアパトルが最高峰の舞台に復帰するのは時間の問題だ。
モータースポーツファンの多い日本でも、まだまだ知られざる存在のスピードウェイ。興味を持った人がいれば、ぜひ動画サイトなどで検索してみることをお勧めする。そして、機会があれば
エンジンの轟音、
飛び散るトラックの砂、
選手たちの強靭な心を体験しに、スタジアムに足を運んでみてほしい。
<取材・文/林 泰人 撮影/Róża Koźlikowska>