輸送効率で犠牲にされるドライバーの居住空間。「人権なきトラック」ショートキャブの問題点

やむなく坂道に駐車して車体ごと斜めにして休むドライバーも

 また、このショートキャブの場合、運転席の後ろがすぐ壁になっているため、リクライニングシートを後ろに倒すことすらできないというさらなる弱点もある。  トラックドライバーには、4時間走ったら30分休憩しなければならないという規則が存在するほか、到着した荷主の元でも長時間(時には半日以上)待たされるのが常なのだが、その時間、車内ではリクライニングを倒せないまま待機せねばならなくなるのだ。  筆者自身も現役時代はよくこのリクライニングが倒れないトラックで長時間待機をしていたのだが、運転時とは違い体と脳が「休息モード」になるため、同じ体勢でもよりきつく感じる。  実際、今回聞いたトラックドライバーからは、「寝づらい」という意見以上にこのリクライニング問題に対する不満が多かった。  そのため、少しでも楽な体勢を取りたいと、「上り坂を前向きに駐車して車体ごと斜めにし、足をハンドルに上げて体を倒した状態にしている」というトラックドライバーも存在した。  さらに、寝台のないトラックで前に追突してしまった場合、ダイレクトに後ろの荷台に押しつぶされ死亡事故に繋がるという懸念もある。  これはショートキャブが多い小・中型トラックでも同じことが言えるが、長距離を走るトラックの場合、スピードの出やすい高速道路を利用する機会が多いため、その分リスクは高くなるのだ。

ドライバーを圧迫する、ショートキャブの「利点」

 そんな声が長年聞こえてくる中でも、道路からショートキャブの大型トラックがなくならないのには、やはり理由がある。「輸送効率」がいいのだ。  大型トラックの全長は、キャビンと荷台合わせて最長で12メートル以内という法的制限がある。こうした中で、少しでも多くの荷物を運ぶためには、キャブを短くし、荷台を長くするしかない。つまり、多くの荷物を運ぶために、ドライバーの荷物スペースが犠牲になるというなんとも皮肉な構図が車内にでき上がっているのだ。  ドライバーがショートキャブを「人権なきトラック」という理由はここにある。  トラックを製造するメーカーの中には、「ショートキャブは輸送効率や労働生産性が上がることでトラックドライバーの負担を軽減させることができる」と堂々と謳っている社もある。  しかし、ドライバーが長期間家に帰れず車中泊していることを知ったうえで寝台を取っ払い、リクライニングすら倒せないようにしたクルマが、果たして本当に「ドライバーに優しいクルマ」だと言えるのだろうか。  次回、「2階に寝台があるタイプのトラック」に続く。 <取材・文/橋本愛喜>
フリーライター。元工場経営者、日本語教師。大型自動車一種免許取得後、トラックで200社以上のモノづくりの現場を訪問。ブルーカラーの労働環境問題、ジェンダー、災害対策、文化差異などを中心に執筆。各メディア出演や全国での講演活動も行う。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書) Twitterは@AikiHashimoto
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