それでは、専門家でない私たちは、この研究から何を学ぶことが出来るのでしょうか。
この研究は、あくまでも診断時に特定の質問を受けているときの反応傾向であり、それが日常の行動傾向にまで及ぶかどうかまではわかりません。
また、最初の有名人の生前の写真や動画で言えば、研究時と条件が異なりすぎて、何も言えないのです。亡くなった有名人の苦悩の痕跡を写真や動画を観ても、何もわからないでしょう。
しかし、私たちは、こうした具体的な知見を知ることで、「何か様子がおかしい」という段階を超え、周りの大切な人にこの知見を投影し、活かすことが出来ます。
あるとき、ふと気が付くと、友人の顔に笑顔と悲しみ表情が減り、軽蔑と羞恥表情が増え、一人になりたがるようになった。それがどうもしばらく続いているようだ。
そんなとき、この友人に声をかけてみる。大きなお節介だと言われてしまうかも知れません。しかし、悩める人が一人、もしかしたら、一つの命が救われるかも知れない。そんなふうに思います。
表情からヘルプシグナルを読み取ることは、自分自身にも適用できる
自殺の直前の兆候を示す表情は特定されていません。しかし、その前の前の段階ならば、表情からヘルプシグナルがわかるかも知れません。
また、自分の心のモニタリングにも利用できるでしょう。
コロナ禍で人と距離が遠くなりつつある今日。私たちは、心が行動を生み出すという影響だけでなく、行動が心を生み出すという影響も受けています。
リモートワークなどで物理的に人との距離が離れることで、心の距離も感じてしまい、自殺やうつ状態とまでは行かないまでも、ふさぎ込み気味になってしまうかも知れません。
そんなときこそ、自分の心を見つめ、いつも以上に人と関わろうと意識してみて下さい。あなたが救われると同時に相手も救われているかも知れません。
【参考文献】Girard JM, Cohn JF, Mahoor MH, Mavadati SM, Hammal Z, Rosenwald DP. Nonverbal Social Withdrawal in Depression: Evidence from manual and automatic analysis. Image Vis Comput. 2014;32(10):641‐647. doi:10.1016/j.imavis.2013.12.007
【推薦図書】自殺予防に関して、表情に特化するのではなく、全体的に観察するアプローチとして書かれている書籍としては、高橋祥友『
自殺のサインを読みとる 改訂版』講談社(2008)がおすすめです。
<文/清水建二>