わざわざ「危険な組織だ」と噂される公然拠点を構えるメリットはない
少し前に、友人の中国史研究者(訪中できなくなるので匿名である)と話す機会があった時にも、こんな話になった。
「ネットじゃあんなに書かれてるのに、まったくスパイの勧誘が来ませんよ」
「当たり前じゃないですか、本気で信じて通ってたんですか?」
彼の話は明快だった。どこの国でも、その国の言葉に堪能な中国人がいないところはない。日本に限っても、わざわざ語学教室にカモフラージュして、日本人をスパイに養成するよりも、日本語が堪能な留学生にバイトさせたほうが効率的だ。わざわざ「あそこは危険な組織だ」と噂される公然拠点を構えるメリットはないのだ。
ただ一方でこんな話も。
「研究者の中にも、あの人は中国から資金提供を受けていると噂される人がいます。特に、戦時中の日本軍の戦争犯罪に関する資料を収集しています。中国本土では日本の戦争犯罪の証拠となる資料が極めて少ないために、将来の利用価値を考えて資金を提供し収集しているのではないかともいうのです」
日本では公文書を廃棄することが一種の”流行”だが、中国では歴代王朝が滅亡するたびに次の王朝が先代王朝の文書を確保し歴史をまとめることが行われてきた。「正史」を記述することで、その後継である王朝の正当性を主張することができるわけだ。辛亥革命後の『清史』は、国民政府が一旦は刊行。中華人民共和国では国家清史編纂委員会による編纂が行われ、そろそろ刊行が始まるようだ。こうした、巨大なスケールの動きも驚異と捉え、孔子学院へのあらぬ妄想を肥大化させている理由かも知れない。
本土在住中国人Twitterアカウントは工作員!?
いずれにしても、一連のトランプ政権への追従に過ぎない中国への批判がネットで拡大していく背景にあるのは、日本があらゆる意味で疲弊し衰退しているからかも知れない。
この記事を書くにあたって、SNSを眺めていると、また驚くものがあった。ネット検閲の厳しい中国ではTwitterやFacebookは使えない。だから、Twitter上にある本土在住の中国人のアカウントはみんな中国共産党の工作員だというものだ。確かに禁止はされているものの、VPNを使えば中国国内からのアクセスは可能で、Twitterを使っている中国人も少なくない(もっとも、いつも快適に接続とはいかない)。中には、そのことは知っているのか、「VPNを使えるのは中国共産党員だけ」というようなことを書いている人も。昨年取材した、中国人のコスプレイヤーが日々、Twitterで少々過激な自撮りをアップロードしているのだが、あの娘は工作員だったのか……。
所詮、中国への過激な非難はアメリカの傘の下での従属を前提にしたもの。終戦の日に靖国参拝した閣僚の一人も対米従属の打破を叫べない現状では、語学学校を「スパイ機関」などとSNSに書き綴ってカタルシスを満たすしかないのだろうか。
<取材・文/昼間たかし>