© TRADEMARK (RED JOAN) LIMITED 2018
8月7日より、映画『ジョーンの秘密』が公開されている。
本作は「イギリス郊外で穏やかな一人暮らしを送っていたおばあちゃんが元スパイだった」というセンセーショナルな出来事が物語の起点となっており、広島と長崎に落とされた原子力爆弾にも関わる事実も描かれていた。作品の魅力を解説していこう。
2000年のイギリス、夫に先立たれ仕事も引退した80歳のジョーンは、突然訪ねてきたMI5にスパイ容疑で逮捕されてしまう。捜査は第二次世界大戦が始まる直前まで遡り、以降は男女の愛憎入り交じる恋愛ドラマが展開していくことになる。
1938年、大学で物理学を学んでいた若き日のジョーンは、友人となった女性から共産主義者の会合に誘われ、カリスマ性を持つ青年のレオと出会い、彼とたちまち恋に落ちる。その後にジョーンは原子力開発機関で事務員として働き始め、プロジェクトリーダーである教授からその知識と才能を認められ、原子力爆弾の開発という機密任務に参加することになる。
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しかし、ジョーンはその情報を仕入れたレオから、原爆の設計図と研究結果をソ連側に提供するよう要求されてしまう。ジョーンは共産主義には賛同できない、ソ連側につくことはできないと、その申し出をきっぱりと断るのだが、彼女は同時にレオに利用されていただけで、愛されていなかったのではないか、と深く傷つくことになる。
また、ジョーンはケンブリッジ大学を首席で卒業するほどの秀才でありながら、女性だからという理由でなかなか正当な評価を得られずにいた。恋人から裏切りとも言える仕打ちを受けた上に、その後も男性社会の中で振り回されてしまうジョーン……彼女のような賢く優秀な女性が持つ葛藤や苦しみは、残念ながら現代の日本でも珍しくはないものだろう。その姿を見て、切なさを覚えると共に、共感できる方はきっと多いはずだ。
前述したように、本作は重圧な歴史ものというよりも、恋愛ドラマを主軸とした、1人の賢く優秀な女性の姿を追う物語という印象が強い。それと並行して描かれるのが、なぜ彼女は晩年になってからスパイ容疑をかけられたのか、という疑問を解き明かすプロセスだ。
何しろ、ジョーンは恋人のレオから原子力爆弾の設計図を引き渡すように要求されても、自身の理念に基づいてきっぱりと断っている。むしろ、ジョーンはスパイにはならなそうな、“正しさ”を持った人物として描かれているのだ。
そんなジョーンは、1945年の出来事により激しく動揺する。アメリカ、イギリス、カナダの協力により、原爆の実験は成功。そして、アメリカが広島と長崎に原爆を落としてしまい、ジョーンは何十万もの人々が亡くなったというニュースを知り、焼け野原の映像も目の当たりにするのだ。そしてジョーンはとある確信を持ち、危険な行動を起こすことになる。
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「広島と長崎に原爆を落としたのはアメリカである」というのが事実であるのはもちろんだが、実際は原爆の誕生までに複数の国、科学者や技術者が関わっている。この映画を観れば、歴史の裏にあったその事実を、今一度認識できるだろう。
ジョーンは広島と長崎への原爆投下を防ぐことはできなかったが、そのとてつもない悲劇を知った彼女の確信に基づく行動があったからこそ、さらに起こり得たかもしれない悲劇を回避できた、とも考えることもできる。
そして、祖国と仲間を裏切ってまで、スパイ容疑をかけられてまで、ジョーンが守ろうとしたものは何であったのか……ぜひ映画本編を観て確認してほしい。