不可視の貧困は今後拡大しゆく。写真は週刊SPAでも報じられたレンタル倉庫で寝泊りする男性
新型コロナウィルス感染予防対策による休業要請などにより個人の経済生活にも大きな支障が出ている。だが昨今、国内ではそれ以前から根深い貧困が存在している。
その実態を克明に取り上げた『
年収100万円で生きる─格差都市・東京の肉声─』の著者で、貧困家庭出身のジャーナリスト・吉川ばんび氏は次のように話す。
「著書で取り上げた『年収100万円』のエピソードは特に珍しくはありません。しかし読者から寄せられた感想は『こんな世界知らなかった』というものでした。主に中流以上の家庭で何不自由なく育ち大学まで卒業したような人が、そうした感想を抱くことが多いようです。私と世間の“貧困に対する認識のギャップ”を感じました」
SPA!取材班によるルポに加え、吉川氏が自身の体験談や分析を書き下ろした同書では、軽自動車やレンタル倉庫で暮らす男性など、16人の悲痛な叫びが掲載されている。吉川氏は、
「努力さえすれば貧乏にならない」という貧困への“自己責任論”が問題解決を阻害していると指摘する。
「実際には、生まれた家庭が貧しかったり、災害で家を失ったり、困窮のきっかけはさまざま。
努力だけで這い上がるのは困難です」
また、
メディアが貧困をエンタメ化した結果、「うちはまだ大丈夫」と自身の貧しさから目をそらす人も増えたと吉川氏は語る。
「光熱費の支払いに苦しんでいる家庭の人でも、ネットカフェ難民や生活保護受給者を見て『あそこまで落ちぶれていない』と話します。
メディアのせいで貧困層の間でも分断が進んでいるんです」
さらに、新型コロナの“第二波”による経済活動はますます困難になる見通しだ。吉川氏は自己責任論で片付けていると、事態はさらに悪化すると警鐘を鳴らす。
「新型コロナの影響で、生活保護の申請をする人が増えています。これまで世間の目が気になって申請していなかった人も、そうせざるを得ない状況になっているのです。一方で、政府は以前から財政を圧迫する生活保護受給者を増やさないために“水際作戦”を行い、受給のハードルをどんどん上げています。餓死する人が出てもおかしくない状況です」
国の補償も十分とは言えない。
「特別定額給付金の10万円を受け取って生活が上向いた人はいないと思います。ほかは、貸し付けや融資など返済義務を伴うものばかり。失業者が増えれば、追加で抜本的な対策が必要になりますが、今のところ動く気配がありません」
出典:総務省「労働力調査」