「主催者はまだなんとかなると思うけど、印刷所は維持しなくちゃいけない。だから、いまやることは
変わらず同人誌を作り続けることでしょう。コロナが治まるまでは、規模の大きな同人誌即売会を開くことはできないでしょう。でも、そうやって維持していれいば、また再開できるじゃないですか」
そしてYさんは、大規模な同人誌即売会が無理なら、自分の手で開けばいいというのだ。
「自分の家で10人くらいが集まる交換会。そんなのを全国でやることはできるでしょう。もう少し規模を拡げて、10サークルくらいが、ソーシャルディスタンスしながら集まるくらいだったら個人でも主催できる……そう、
自分が代表になればいいんですよ」
コミケをはじめとした同人誌が「業界」と称するような利潤を目的とした、巨大な市場になっているのは否定できない事実である。一方で同人誌文化は、商業誌では利益のでないようなもの。あるいは商業誌ではできないような表現に挑戦する一種のカウンターカルチャーとして発展してきたという経緯があると思う。経済規模だとか、社会的に価値があるものなんてことは関係なく、自分のやりたいことを、なんの制約もなく表現し、人に見てもらう。そして、まだ見ぬ「同志」と出会う場が同人誌即売会の意義といえる。SNSでも、毎日のように様々なマンガやイラスト、文章などが話題になっていることから、も明らかだが、新しい表現したい、みたいという欲求は利潤とは別のところにある。
コミケが中止になったことから巻き起こっている騒ぎは、いかに年2回のコミケの開催に作者も読者も依存してきたかを示していると思う。これまで、年2回コミケがあることが当たり前というルーティーンの中で展開されてきた同人誌文化。もしも、本当に文化を守ろうとするのであれば、できる形で個々人が同人誌をつくり、頒布する方法を考える。それがアフターコロナの世界で、再び同人誌即売会が栄える爆発力になるのではないか。
そんな理想も思い描かれるが、それは簡単な話ではない。やはり、交流のための場をつくるには困難もあるからだ。
あるイベント主催者からは、こんな話も聞かれた。
「以前、オタク系の催しのために同人誌即売会によく開催されている展示場に申込みをおこなったところ、断られてしまいました。展示内容にアダルト系があるから駄目だというのです。同人誌即売会でもアダルト系はあるわけですから、そこを尋ねてみたところ<同人誌即売会は、前例があるから認めざるを得ないが、本当は許可したくない>というのです。同人誌即売会も、なんらかの中断により前例から外れてしまえば、簡単に施設を貸してくれない扱いになる危うさがあると思いますよ」
あたかも巨大な市場を持つ産業という幻想が打ち砕かれた今、文化としての同人誌をどうやって維持していくか、改めて同人誌を愛する人々皆が考える時期になっているのは間違いないだろう。
<取材・文/昼間たかし>