日本における宗教者のインドア犯罪では、祈祷や占いのための個人面談において行われる傾向が強いことは、すでに述べた通り。しかしキリスト者による性犯罪は、こうした日本的な宗教的性犯罪とは少々構図が異なる。
キリスト教においても聖職者と信者が1対1で対話する宗教的な場面はないわけではないが、「祈祷・占い」に比べれば個人面談が主軸の宗教というほどではない。多数の信者が集まる礼拝、その他の催し、その準備、社会活動等々、聖職者と信者が接する様態は様々だ。こうした関わりの中で宗教儀式としてではない性行為が行われており、『グレース・オブ・ゴッド』や『スポットライト』で描かれた被害もそういう種類のものだ。
この点は日本でも同様で、新聞記事でも宗教上の個人面談の場での犯行に限定されていない。
〈強制わいせつ容疑で牧師逮捕 /岐阜県〉(朝日新聞2016.09.04)の事件は、〈教会に出入りしていた女性に背後から近づき、抱きついたり、尻を触ったりするなどのわいせつな行為をした〉(同記事より)疑いだ。
〈牧師が女性信者乱暴 つくば中央署容疑で逮捕 教団施設を家宅捜索〉(茨城新聞2010.01.29)では、共同生活をしていたスタッフが被害にあったと主張している。
教会や聖職者が信者コミュニティの日常生活に深く関わるキリスト教は、密室性が高いだけではなく、その
「密室」の範囲が広く多様だ。
日本の仏教でも、地方の地域密着型寺院であれば地元住民との接点も多いだろうし、住職が宗教活動以外で地元団体の役職者だったり、大地主だったり、観光寺を運営する商売人だったり、兼業で教員等をしていたり、様々な形で社会と接点を持つ。しかし少なくとも性犯罪報道という切り口で見ると、これらは性犯罪の現場としての宗教的密室になっていない。
キリスト教系の性犯罪報道では、容疑者の氏名として韓国系とおぼしき名前が複数登場する(他国の牧師による事件も1件あった)。今回カウントしていない前述の摂理も韓国の宗教であり教祖は韓国人だ。
本稿が差別やヘイトスピーチに利用されることを避けるため解説しておくと、これは国籍や民族が性犯罪につながることを示すデータにはならない。韓国のキリスト教事情と、その影響が日本社会にも及んでいることが反映されているだけだろう。
韓国では独自に教会を設立した牧師による、プロテスタント系というよりは「インディーズ系キリスト教」とか「キリスト教系新興宗教」と呼んだ方が良さそうに思えるキリスト教勢力がある(もちろん他国でもあるかもしれない)。牧師が強権的(つまり教祖的)だったり教義に独自色が強かったりする場合は、韓国のプロテスタント系から異端視されたりもする。
日本には、一般的なキリスト教はもちろん、こうした類も含めて、韓国系の牧師が活動したり韓国系教会が設立されたりしている。後述する卞在昌牧師の「小牧者訓練会」「国際福音キリスト教会」もその類いだ。
今回の一連の新聞記事には登場しないものとして、前述の摂理のほか、韓国で新型コロナウイルスの集団感染を引き起こした「新天地イエス教会」も、日本でも活動している。正体を隠して大学生等を勧誘することで有名な「ヨハン早稲田教会」も、発祥は日本のようだが韓国人牧師が設立し信者には韓国人が多い。日本では霊感商法や偽装勧誘で知られる右翼的新興宗教のイメージが強い統一教会(現・世界平和統一家庭連合)も、以前の名称は「世界基督教統一神霊教会」であり、欧米ではむしろキリスト教の一派のように見られているとも聞く。
例示するものがキワモノばかりなのは、筆者がカルト取材ばかりしているせいだ。おそらく、もっと一般的な韓国のキリスト教・キリスト者も日本で活動しているケースはあるはずだ。
ここで言う「プロテスタント系」は、これらも含めた玉石混交な分野だ。その中で、日本と韓国との間に宗教を介した接点が多い以上、性犯罪の容疑者とされたキリスト者の中に韓国系の人物も登場したとしても、何ら特別なことではない。国籍や民族と性犯罪を結びつけるデータにはならない。
<取材・文/藤倉善郎>