熊本豪雨で考える日本のダム。川辺川ダムがあれば被害は防げたのか?

熊本豪雨で考える日本のダム

球磨村では川の氾濫で多数の家屋が全壊。堤防付近はいまだ残骸が山積みになっている

 全国で77人もの死者を出した“令和2年7月豪雨”を受けて、巻き起こるダム建設の是非。’08年に建設が中止された川辺川ダムが完成していたら、熊本の水害は防げていたのか? 専門家や地元住民らを取材して検証した。

熊本豪雨で考える日本のダム

熊本豪雨で考える日本のダム  ダムがあれば大規模水害は防げたのか? 今、大きな論議を呼んでいる。その発端は、7月3~4日にかけて日本を襲った豪雨災害だ。停滞する梅雨前線の影響で、各地で河川が氾濫。全国の死者は計77人にのぼっている。うち65人もの死者を出したのが熊本県。それもすべて同県を流れる川流域での河川の氾濫が原因だったのだ。最も多くの死者を出した人吉市在住の50代男性が振り返る。 「特大のバケツをひっくり返したような雨で4日午前8時すぎに球磨川が氾濫。避難しようと外に出たら膝上まで道路が浸水していました。軽トラで逃げようとしたら、何度も濁流に流されかけて……あのときの恐怖は忘れられません」  同じく多くの死者が出た下流の球磨村の60代女性は濁流のなか、3度の避難を余儀なくされた。 「避難指示が出て指定避難所に行ったら、その避難所が浸水。近所の2階によじ登って避難したら、2階にも濁流が迫ってきた。そこに子供用のプールを浮かべて消防士の方が助けにきてくれたのですが、消防士の人と2人で乗ったら沈んでいく。高台まで引っ張り上げてもらうまでに水をかき出し続けて精根尽き果てました」
熊本豪雨で考える日本のダム

最も広範囲に被害が発生した人吉市では西瀬橋が流失。各地で頑強な橋が破壊された

熊本豪雨で考える日本のダム

八代市で唯一被災した坂本町では町が一つのみ込まれたような被害に(写真提供/峯苫医院・皆吉秀太氏)

 実は今回の熊本豪雨では14か所もの指定避難所が浸水。多くの被災者が、さらなる避難を余儀なくされた。それだけ想定外の豪雨だったとも言えるが、治水対策の不十分さも透けて見える。土木工学を専門とする藤井聡・京都大学大学院教授が話す。

川辺川ダムがあれば暴れ川である球磨川に流れ込む流量が抑制できた?

「球磨川は日本三大急流の一つで、『暴れ川』の異名を持つ河川。それも今回、堤防が決壊した人吉は最も脆弱なエリアだと指摘されていた。人吉エリアは川辺川と球磨川の合流地点のすぐ下流にあるからです。この球磨川水系の河川整備基本方針では、豪雨発生時の人吉の最大水量は毎秒7000㎥に達すると想定されていた一方で、毎秒4000㎥を超えると洪水被害が発生するとも推計されてきました。つまり、7分の3の水量をカットしなければ河川の氾濫を防げず、そのための最も効果的、かつ現実的な解決策が’65年に計画された川辺川ダムだったのです。ところが、反対世論に押されて民主党政権下の’08年に、群馬の八ッ場ダムとともに建設を中止(八ッ場ダムのみ後に建設再開)。その後、球磨川水系ではダムに代わる抜本的な治水対策が12年も実施されてこなかった」  この川辺川ダムがあれば被害は抑制できた、というのが藤井教授の分析だ。 「’17年に完成予定だった川辺川ダムは、球磨川上流にある市房ダムの約10倍の洪水調整能力。もし完成していれば、球磨川に流れ込む流量が抑えられて決壊が起こらず、犠牲を防げた可能性が高い」
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ダムが水害を拡大する「緊急放流」というリスク
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