メディアが報じない香港。国家安全法による市民への弾圧が始まった!

実力行使続ける勇武派。選挙で変える「抗争派」

 そんな市民に対する警察の鎮圧はエスカレートしていった。放水車と装甲車が縦列を組んで銅羅湾周辺をグルグルと巡回。放水して、デモ隊を散らしにかかった。夕方4時を過ぎた頃には、放水車が無防備な報道カメラマンを狙い撃ちした様子がSNSで拡散。強烈な放水によって、文字どおりカメラマンが吹き飛ぶ衝撃的な映像だ。「民主派を応援するメディアには容赦しない」。警告を込めた放水と受け取った周囲の記者らは怒りを露わにしていた。
メディアが報じない香港

SNS上で拡散した映像。警察の放水車が突如、無防備なカメラマンを襲い、1mほど吹き飛ばされることに

 筆者もその現場に急行すると、目に強い痛みと息苦しさを覚えた。水には催涙スプレーが混ぜられていたのだ。周囲には何人もの咳き込む市民の姿が。店内にも流れ込んだのか、レストランから駆け出ていく市民の姿も見られた。  警察の暴力的な鎮圧を受けて、大通りでは勇武派による対警察工作が活発化。数々の抗議活動で最前線に立って警察と対峙してきた彼らは、手際よく歩道に敷き詰められたレンガをほじくり出しては道路にばら撒いていった。警察車両の進入を阻止するのが狙いだ。そんな勇武派が逮捕されないように、穏健派の抗議者らが警察の接近をいち早く察知して知らせる。規模は縮小したものの、昨年の反逃亡犯条例運動と変わらぬ闘う香港人たちの姿がそこにはあった。  最終的に370人以上が逮捕され、うち10人が国安法違反で逮捕されたが、それ以降も小規模ながら各地で抗議活動は続いている。同時に、9月6日の立法会選挙に向けた民主化運動も盛り上がりを見せている。7月11・12日には票の分散を避けるために民主派が候補者を絞り込むための予備選挙を開催。香港政府が「国安法違反の可能性がある」と脅しをかけたにもかかわらず、主催者目標の17万人を大幅に上回る60万人以上の市民が予備選に投票したのだ。
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7月1日だけで370人もの抗議者を逮捕!

 林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官が「香港の施政を阻むために立法会で過半数の議席を獲得することを目的とするならば、国安法の違反の可能性がある」と脅しても香港人はどこ吹く風だ。 「中国共産党政権の下でも、香港人は屈服も、投降もしないことを国際社会に示す」  7月20日、SNSにこう書き込んだのは、立法会選挙への立候補届を提出した前出のジョシュアだ。彼をはじめ抗議活動を支援する候補者らは「抗争派」を名乗って支持を訴えている。まず、政府の手によって民主派候補の多くが出馬取り消し処分を食らうことは必至だろう。それでも民主化運動は続くのか? 9月の選挙で香港人の覚悟が見えるだろう。

香港人は中国にない選挙という意思表示手段がある

 国安法施行を受けて今後、香港はどう変わるのか? 亜細亜大学アジア研究所所長の遊川和郎氏は「中国と同じように統治しようというのは無理がある」と指摘する。 「確かに過激な抗議活動や独立の主張は国安法の名の下、厳しく取り締まられるでしょう。しかし、声高に政府批判ができない人でも、香港なら個人を特定されずに投票行動で意思表示が可能です。そこがすべてを監視される中国本土との違い。すると当局はますます弾圧を強化するという悪循環に陥り、著名な活動家が投獄される可能性も出てくる。そうなると第2の劉暁波を生み出しかねません。中国本土で政権転覆扇動罪に問われた彼は’10年に獄中でノーベル平和賞を受賞し、3年前に獄死しました。このようなシンボル的な政治犯をつくってしまうと、中国政府に対する世界の風当たりが強くなるのは必至です」  すでに海外に移住する政治活動家も現れているが、「中国政府にとっては香港の中国統治に反発する輩は出て行ってくれたほうがいい。替わりの人材は中国国内にいくらでもいますから」と分析。一方で、外国人が国安法の下、逮捕されるリスクがある点には注意したい。 「国安法第38条は、香港人以外でも同法の適用対象であると明記しています。一般的な言動の範囲内ならば問題視されることはないと思いますが、特に香港の活動家を支援する行為、便宜供与や資金面での援助は危険です。香港に入った途端、いや香港の飛行機に乗った途端、国安法違反で逮捕される可能性があります」 メディアが報じない香港【亜細亜大学アジア研究所・遊川和郎教授】 日立製作所、在香港総領事館外務省専門調査員、日興リサーチセンター上海駐在員事務所所長などを経て、中国・香港研究を専門とする大学教授に <取材・文・撮影/佐藤健一 写真/AFP/アフロ>
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