「前年度比」という呪縛のもとに強いられる、クソくだらない仕事
バブルが弾けて25年、人口が減り始めて10年。なのに、未だに「前年度比」で目標を駆り立てる企業たち。それは果たして正解なのか。
もっと売って、もっと消費して、地球に人類は生き続けられるのか。その答えは、去年の大型台風や今年の集中豪雨だけを見てもわかるし、世界中の気候変動によって加速度的に増える大規模災害をみても明らかなはずなのに!
先週、沖縄から来た30代のKさんご夫婦はともに役所務めを辞めた。「役所は前年度比がないじゃないか」と思われるかもしれない。しかし、それに準ずるものが蔓延している。
沖縄の美しい海や山の景色を汚していくのが彼の仕事だった。
経済効果とか、住民が豊かになるとか、それが住民のためになるとか……そんな常套句に踊らされて、必要のない公共事業が遂行されていくことに加担している。時には夜中2時まで家に帰れない日が続くことも。そんな自分が苦しくて、悲しくて「このままじゃいけない」と公務員を辞めた。
集落に何本も道路が並行して通っているのに、高架橋やトンネルを作って道をさらに増やす。ニーズがあるか疑わしいのに、綺麗な海の埋め立て工事が進められ、せっかくの美しい景観が失われ、サンゴや魚は減っていく。これはまさに
ブルシット・ジョブ(クソくだらない仕事)だ。
地方では誰もが羨ましいと憧れる公務員の仕事も、経済成長とか経済効果という言葉に踊らされて、必要ないブルシット・ジョブに悩む人が多いことは間違いない。
沖縄に帰った彼らからメールが届いた。
「地方はこれまで以上に財政難になり、公務員は過剰な住民からのクレーム処理と求められるサービスというさまざまな困難に、自身の生活を犠牲にして疲弊する人がますます出てくると思います。かつての日本は、地域の皆で助け合いながらすばらしい子育てができる環境にありました。ところが、高度経済成長以降に田舎も都市化が進んでいきました。都市に人が集まって少子化が進み、行政の子育て支援策に頼り、その成果は出せていない……という矛盾を感じました。コロナ禍でそういったことに気づく人が増えたらいいなと思います」
かつて子だくさんだった沖縄も、出生率が低下している。
美しいサンゴの海を埋め立てる、「国家的ブルシット・ジョブ」
この美しい辺野古の海が、軍事基地として今この時も埋め立てられている。辺野古だけでない。取り戻せないものを壊し、必要ないものを作るために、どれだけブルシット・ジョブを負わされて悩みながら仕事する人が多いことだろうか
ちょうどKさんご夫婦が来たとき、俺が営むNPOで米作りを始めて3年目となるNさんと語り合う場面があった。40歳代半ばのNさんは大手警備会社に勤めている。彼の会社では、沖縄の辺野古基地建設の警備の仕事を請け負うようになった。基地を作らせないために頑張っている沖縄の方たちを無情に排除する警備だ。
Nさんは辺野古基地警備の仕事を会社が受けたとき、違和感と嫌悪感を覚えた。国家事業とか国の安全保障とか大義名分があったとしても、サンゴ礁を破壊して美しい海を埋め立て、軍事基地を作り、それを拒否する人たちを冷徹に排除する業務に自分が遠からず加担することに、だ。
まさに「国家的ブルシット・ジョブ」。Nさんは悩みに悩んだあげく、8月にこの会社を辞めることを決断した。すると上司や同僚たちも、今までは口にしなかった違和感を彼に吐き出すようになった。実は、多くの社内の人がブルシット・ジョブに疲弊しているのに、口にできないだけだったのだ。半月前に俺を訪ねて来てくれた48歳介護士のSさんは言った。
「仕事で関わる人と交わす言葉や雑談は、数字・お金・情報、のやりとりばかりだった」と。
沖縄から来たKさん夫婦と警備会社のNさんの会話は聞かなかったが、おそらく共鳴したことだろう。