リニア工事の残土処分のため? 相模原市の急斜面に「不思議な牧場」建設計画

リニア新幹線の残土を捨てるためのカモフラージュ?

津久井農場の完成予定CG(住民説明会の資料より)

津久井農場の完成予定CG(住民説明会の資料より)

 2018年秋、神奈川県相模原市の田所健太郎市会議員(共産党)が、筆者に「不思議な牧場計画」について話してくれた。あくまでも地元住民からの二次情報だが、以下のような内容だった。  市の山の中に大量の残土が捨てられる。噂では、その数㎞近くで工事が行われるリニア中央新幹線のトンネル掘削の残土らしい。山の中に捨てれば不法投棄だが、山の急斜面を残土で平坦地にして「津久井農場」という牧場を建設するという。  だが、その残土は東京ドーム1杯分にも相当する100万㎥にもなる。しかも、事業者は地元の人間ではない。自動車で1時間かかる茅ヶ崎市から通勤して、250頭もの牛がいるのに夜は無人になる。 「地元では、なぜ、わざわざ牧場計画地に斜面を選んだのか、この事業者が本当に酪農をやりたいのかが見えてこないという人がいる。牧場造成に名を借りたリニア残土捨て場であり、牧場の造成直後に事業者は『やっぱり無理でした』と牧場経営を放棄するのではとの噂もあります」  もちろん、この話が本当なのかの確証は田所議員にはない。リニアとの関連性も断言していない。ただ、そういう噂を耳にしたということだった。  JR東海が計画するリニア中央新幹線は2027年に開通予定で、東京(品川駅)から名古屋までを40分で結ぶ予定だ。2014年から工事に入ったが、準備工事(ヤード整備、斜坑の掘削など)は進んでいるものの、本丸であるトンネル掘削はほとんど未着手。  一つの要因として、東京ドーム約50杯分の5680万㎥もの膨大な残土の処分地が決まっているのが全体の2割台しかないからだ。建設残土は不法投棄を防止するため、「資源」として有効活用できる場所でなければ捨てることはできない。つまり、残土を有効利用できる処分地が決まらない限り、トンネルは掘れないのだ。  田所議員と話した2018年時点で言えば、フジタはリニア工事を愛知県、長野県、岐阜県などで進めている。津久井農場予定地の近くのリニア工事にも入札するのではと噂されていた(*後述するが2020年6月25日に津久井トンネル他東工区をフジタが落札している)。リニア工事と津久井農場は関係があるのだろうか?

莫大なお金をかけて、なぜ急斜面の土地に牧場を作る謎

津久井農場計画について語る鈴木秀徳氏

津久井農場計画について語る鈴木秀徳氏

 そこで筆者は情報を整理しようと、2019年夏に地元で反対運動を展開する相模原市緑区韮尾根(にろうね)地区在住の鈴木秀徳さんと落ち合った。  鈴木さんは居住地のすぐ近くの斜面に地上80mの高さに残土を積む計画に恐怖と疑問を抱いていた。こういう説明だった。  事業者である有限会社「佐藤ファーム」の佐藤誠代表は、茅ヶ崎市で若いときから酪農を営んでいた。だが、県立高校の耐震化建替えに伴う仮校舎用地として牧場用地を提供したことで、1999年に休業。津久井農場が2024年に運営開始予定というから、実に25年ぶりの牧場経営となる。それなのに、250頭もの牛を飼育する経営体制は構築されていない。  筆者は、佐藤代表はかなりの資産家なのかと思った。というのは、相模原市では残土の受け入れ業者に対して、残土の不法投棄を防止するため、市への保証金支払いを課している。100万㎥では、4億300万円が必要となる(造成後に返金される)。 「造成工事にも数十億円はかかる」と鈴木氏は予測するが、さらに、残土を搬入するため、1日300台のダンプカーが集落の狭い道を何年もかけて延べ約25万台も通る。つまり、道路拡幅が必要となる。これにもおそらく億単位のお金がかかる。  またこれだけの大事業なので、環境アセスメントの手続きを受けなければならない。環境調査を外部の業者に委託するために、さらに億単位のお金がかかる。  もっともわからないのが、津久井農場の計画地は佐藤代表が1998年に購入したが、1999年の休業を見越しての土地取得だったとしても、なぜ牧場にするには使いづらい急斜面を選んだのかということだ。そして、なぜ20年以上も経っての牧場再開なのかだ。  環境アセス手続きでは、環境調査が終わったあとに計画を文書化した「環境影響評価準備書」(以下、準備書)を公表して住民説明会を開催しなければならないが、鈴木氏と会った2か月後の2019年9月5日、その説明会が開催されるというので、筆者も参加した。まずは、鈴木氏の話を一方的に聞くだけではなく、佐藤代表の主張にも耳を傾ける必要があるからだ。
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説明会では事業者は「答えられません」を連発
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