生計費の試算に基づいた「全国一律1500円」の要求
労働組合のナショナルセンターの中でどのような要求がなされているかとしては、最大のセンターである連合は今年の春闘に向け、企業内最低賃金(都道府県の最低賃金ではなく、各企業ごと)として1100円を要求し、全労協も同じく春闘での要求としてどこでも誰でも月額25万円以上、最低賃金1500円以上を掲げている。
さる17日、先述の小委員会の開催前というタイミングで最低賃金を全国一律1500円とすることを求める記者会見を行なったのが全労連だ。昨今注目を集めるエッセンシャルワーカーについても言及している。
「特に今年は新型コロナ禍の中、困窮する人々の生活を支える『格差と貧困の是正』と雇用を守るということもあっての『労働者の賃金底上げによる経済復旧』を図りたい」
「最低賃金改定は、地域間格差を解消し、全国一律とし、昨年改定を上回る大幅な引き上げを実現し、早期に時間額1500円を実現させたい」
会見では、こうした訴えがなされ、最低賃金を全国一律とする理由として、最低生計費として単身若年で月22万から24万円、時給換算(月150時間労働)で1300~1600円が必要であるともされた。
同労組による最低生計費試算調査として、長野県長野市(長野県の最低賃金は848円)でも、モデルケースとして25歳独身単身男性の場合、25万5000円の生活費、月150時間労働で時給1699円(普通車所有の場合は1799円)が必要といったデータも提示された。
ちなみに東京都北区(東京都の最低賃金は1013円)では1664円の時給が必要と試算されている。全国各地、都市部でも地方でも、最低生計費の必要額は大きく違わないという。
最低賃金の全国一律化が地方衰退につながるのではないかという懸念に対しても、同労組のアンケートでは、逆に6割が「地方で働くきっかけになる」という答えを示したともいう。
この会見ではエッセンシャルワーカーとされる「感染リスクが高い中、社会を維持する医療、介護、運輸、小売などの生活をしっかり維持していかなくてはならない」との訴えもなされた。
財界から出ている「雇用を守るための賃金の抑制」という声については、「支払い能力論で今年も賃金抑制凍結というのが出ているが、労働者の生計費で最賃を決めるのが世界的な流れだ」とした。
中小企業の支援策と最低賃金の引上げをともに訴えるという見解も出されている。
政界や労働界では最低賃金を上げよという意見が主流で、うち共産、社民、れいわといった政党、全労連や全労協といった労組のナショナルセンターは全国一律で1500円、という要求を出している。
一方で財界、そのうちでも特に中小企業の多い日本商工会議所などがそれに強く反発するという構図だが、国際的にも日本の最低賃金は低いという。OECD諸国の最低賃金(対所得中央値=年収の高い層から低い層までを並べ、その平均を取った値)でみても、日本のそれは低いと2017年に作成した
報告書で述べている。
政府は安倍晋三首相が6月3日「今は雇用が最優先」と最低賃金の引き上げに消極的な発言をしたものの、海外に目を向けると、コロナ禍の中であってもロサンゼルス市などカリフォルニア州の自治体が、最低賃金を15ドル(従業員26人以上)、14.25ドル(同25人以下)に引き上げるといった動きもある。
コロナの中で守られるべきものは何かが問われる、今年度の最低賃金審議会である。
<取材・文/福田慶太>
フリーの編集・ライター。編集した書籍に『夢みる名古屋』(現代書館)、『乙女たちが愛した抒情画家 蕗谷虹児』(新評論)、『α崩壊 現代アートはいかに原爆の記憶を表現しうるか』(現代書館)、『原子力都市』(以文社)などがある。