日本人選手の所属歴がないマーリンズが、なぜイチローを獲得したのか?

水次祥子
マーリンズパーク

マーリンズの本拠地、マーリンズパーク(photo by Roberto Coquis)

 ヤンキースからFAとなっていたイチローが、メジャー15年目をマイアミ・マーリンズの一員として迎えることになった。契約は1年200万ドル。これに出場試合数などに応じた出来高ボーナスが付くことになる。

 マーリンズといっても、日本ではほとんど馴染みがないチームであるためピンとこない人も多いことだろう。イチローが入団するまで、マーリンズはメジャー30球団中、日本人選手が所属したことのない2つの球団のうちの一つだった。28球団には少なくとも1人の日本人選手の所属歴があるが、シンシナティ・レッズとこのマーリンズだけは1人も所属したことがない。野茂英雄氏以来、これまで52人の日本人選手がメジャーでプレーし、その間に日本人選手を獲得するチャンスはいくらでもあっただろうが、オフシーズンのストーブリーグで日本人選手獲得に動いているという噂さえ1度も挙がったことがなく、まったく縁がなかったチーム。そんなマーリンズがなぜ今、イチロー獲得に至ったのか。

 マーリンズは、リーグ拡大が行われた1993年にコロラド・ロッキーズとともに新たに創設された球団で、2012年にフロリダ・マーリンズからマイアミ・マーリンズに名称を変えた。創設からわずか4年後の1997年にはワールドシリーズ制覇という快挙を達成し、2003年ワールドシリーズで2度目の優勝を果たしたが、この4年間は地区4位以下に甘んじている。

 2002年からオーナーとなったジェフリー・ローリア氏は、「球界最悪の男」「球界で最も信用できない男」といった悪評だらけの人物だ。評判が一気に落ちたのはスター選手を大型長期契約で次々と獲得し大補強を行ったにもかかわらず地区最下位となった2012年のオフ、高額年俸選手をすべてトレードで放出する「一斉処分セール」を行ったときだ。

 しかもその中にはトレードをしないという口約束をしていた選手も含まれていたため、ローリア氏に非難が集中。しかも球団はほとんど税金によって新球場を建設し2012年にオープンしていたため、納税者であるマイアミ住民とファンが怒り、同オーナーに球団を手放すように要求するボイコット運動まで巻き起こり、ファンにそっぽを向かれたチームは、2013年の観客動員がメジャー30球団中29位と散々だった。

 この悪名高いオーナーのいる球団がなぜ今、イチローを獲得したのか。イチローはこの球団で大丈夫なのか。そんな疑問を持ち、懸念するファンも多いだろう。

 実はマーリンズは、球団に対する風当たりの強さを深刻に受け止め、団の広報宣伝をそれまで任せていた会社から別の会社に変えるなどしてイメージ回復に乗り出している。チーム最大のスターで昨季の本塁打王ジアンカルロ・スタントンと11月に13年3億2500万ドルというメジャー史上最大の契約を結んだのも、長期的にスター選手を囲い強いチームを作るという球団のポジティブな意思をアピールするものだった。このときローリア・オーナーは、ヤンキースの黄金期のような強いチームを作りたいと豪語し「楽しみに見ていてくれ」と話している。ローリア氏はニューヨーク生まれで今も年の半分はニューヨークに住み、ヤンキースタジアムのシーズンチケットも保有している。

 オーナーのヤンキース好きとイチローが昨季まで2年間ヤンキースでプレーしたことが関連しているかどうかはわからないが、イチロー獲得は球団のイメージアップと結びついているのは間違いない。イチローは現在、メジャー通算2844安打で3000本安打まではあと156安打、ピート・ローズのメジャー歴代最多安打4256安打までは日米通算であと134安打と迫っており、これから記録を目指していく1~2年は、日本だけでなく米国でも注目を集める。日米通算とはいえピート・ローズの記録に近づきつつあることは米スポーツメディアでもすでに何度も取り上げられており関心は高い。これら2つの記録だけでなく、あと1本安打を打てばメジャー史上最高の捕手でありマーリンズにも所属したイバン・ロドリゲスを抜き、あと4本で名三塁手として知られ野球殿堂入りしたブルックス・ロビンソンに並び、あと29本であのベーブ・ルースに並ぶという具合に、これからイチローがヒットを重ねていくうちに何人もの偉大な選手の安打数を抜き、その都度話題に上る。球団にとってこれほどポジティブな広報活動はないだろう。

⇒【後編】「スター揃いのマーリンズ外野陣の中、イチローのスタメン起用はあるか?」(http://hbol.jp/22424)

<取材・文/水次祥子>

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