―― 安倍官邸で最も権力を握っているのは今井秘書官です。彼は外交にまで口を出していると言われています。いくら安倍総理の信頼を得ているとはいえ、常軌を逸しています。
福島:私は彼のような官僚のことを「
政治家モドキ」と呼んでいます。総理に近い官邸官僚たちは、自分たちが国を動かしているかのように勘違いしています。しかし、政治家は本能として民衆の目や声を気にかけながら行動しますが、政治家モドキは
与えられた権力の行使にばかり関心がいき、民衆に目を向けることはありません。だから彼らの考えた政策は、民衆の実態からかけ離れたものになってしまうのです。
そもそも
政治権力というものは、選挙を通じて民衆から正当性を与えられるものです。民意に基づかない権力の行使は、必ず破綻します。政治家モドキたちは自ら政治家になって政治の世界に足を踏み入れるつもりがないなら、自らの役割をわきまえ、政治と適度な距離感をとるべきです。
もっとも、繰り返しになりますが、政治家モドキたちが官邸を牛耳るようになった根本的な原因は、
政治家の能力が足らないことです。政治家たちに政策構想力がないから、政治家モドキたちが跋扈してしまうのです。
政治家モドキもタチが悪いですが、政治の側にこそ責任があることは忘れてはなりません。
―― 中選挙区制の時代には、族議員と呼ばれる政策に精通した政治家たちが力を持っていました。彼らはしばしば利権を漁っていると批判されましたが、政治家が専門性を持っていたという点では、族議員のほうが良かったのではないですか。
福島:結果として族議員のほうがマシだったということになるでしょう。ただ、族議員たちはそれぞれ専門性はあったと思いますが、彼らはタコツボ的で、全体を俯瞰することができません。彼らは「これからは教育の時代だから、教育政策に重点を置こう」とか「これからは農業政策に力を入れていこう」といったように、個別の政策ではいいことを言っても、それら全部を単純に足し合わせたら正しい方向に行っているとは限りません。族議員の知識だけでは、国の方向性を転換していくことができないのです。実際、族議員が活躍した時代、各省庁別の予算のシェアはほとんど変わっていません。
だからこそ私たちは官邸機能の強化を進めたのです。その時代に国の進むべき基本的方向性を定め、その実現のために必要な政策を取捨選択していくためには、政策分野全体を俯瞰して価値判断ができる官邸を強くする必要があったのです。
そういう意味では、現在の官邸の仕組みに問題があるというより、仕組みに応じた中身が入っていないことが問題なのです。能力のある政治家と最高の専門的知識を持った国務官僚が官邸に入らない限り、いくら官邸機能を強化しても、宝の持ち腐れになってしまうのです。
―― 現在の官邸の仕組みが政権交代を前提としているなら、野党が強くならない限り、官邸はうまく機能しないことになります。しかし、現在の野党を見ていても、政権交代ができるとは思えません。
福島:いまの野党に期待できないという声は、よくわかります。なぜ国民が野党に期待しないかと言うと、やはり民主党政権の失敗が大きいと思います。民主党が政権交代を実現したときは、多くの人たちが民主党に期待し、自らの思いを託していました。しかし実際に民主党に政権運営をさせてみると、とんでもないことになってしまった。国民の間にはそのトラウマが根強く残っているのです。
あのとき民主党政権の中心にいた人たちは、年齢的には若いため、いまだに政界に残っています。国民からすれば、「私たちはノーをつきつけたのに、なぜあなたたちはまだそこにいるのですか」となるわけです。野党支持者が増えないのは当然なのです。
しかも、現在の野党に本気で政権を奪おうとしているようには見られません。次の衆議院選挙は間近に迫っており、早ければ8月にも解散総選挙が行われる可能性がありますが、彼らが選挙に勝って政権交代をしようと準備をしているようには思えません。かつて民主党が政権をとる前は、散々馬鹿にされましたが、「ネクストキャビネット」を組織し、自分たちが政権をとったときに誰を大臣にしてどのよういな政策を実現するかを国民に示していました。また、2005年衆議院選挙の時の「岡田政権500日プラン」のように、政権をとってからどのように行動するのか具体的な構想まで明らかにしていました。しかし、最近はそうした動きは全く見られません。民主党政権の中枢にいた人たちは、政権をとってみて思うように政権運営ができなかったため、内心では再び政権をとることを恐れているのだと思います。これでは国民としても野党に期待しようがありません。
投票率が上がらない原因もそこにあります。いくら自分が投票しても政権交代は起きないと思えば、誰も投票など行かないでしょう。
しかし、政権交代にリアリティが出てくれば、国民は必ず投票に向かいます。いま国民の間には安倍政権への失望感が広がっています。国民は安倍政権を倒したくてウズウズしているのです。私は地元を回っていて強く感じますが、7割から8割の有権者が安倍政権ではダメだと思っているのではないでしょうか。河井克行・案里夫妻の逮捕にしても、いまだに自民党は金権選挙をやっているのかと呆れ返っています。もともと私の地元は自民党の地盤で、自民党以外の人間が行くと塩を撒かれてしまうようなところでしたが、最近では多くの人たちが街頭から「安倍政権を倒して」と声を掛けてくれるようになっています。
野党が政権交代を実現するには、国民の期待に応えうる新しい政治勢力が必要です。そのためには、立憲民主党も国民民主党も日本維新の会もいまある野党はみんな一度解党してもいい、そのぐらいの覚悟が野党には必要ではないでしょうか。小さな政党がそれぞれ我を張っていても仕方ありません。
そもそも今回の都知事選でも、宇都宮健児氏は野党統一候補になれず、国民民主党の前原誠司氏が維新推薦の小野泰輔氏を応援する一方、同じ国民民主党の馬淵澄夫氏はれいわ新選組の山本太郎氏を応援していました。立憲民主党からは須藤元気氏が離党表明し、山本氏の応援に駆けつけています。野党の支持母体である連合東京は、小池百合子氏に推薦を出していました。すでに野党はバラバラで、政党の体をなしていないのだから、それぐらいの思い切ったことをしなければ存在意義はないでしょう。
民主党政権が誕生したときのように、小選挙区制は何かのきっかけで議席数が大きく変化する仕組みです。野党が既存の政党をすべて解党するくらいの覚悟を持てば、政権交代も不可能ではないと思います。いまの野党にそれだけの覚悟があるかどうか、それが問われているのです。
(7月3日、聞き手・構成 中村友哉)
福島伸享(ふくしまのぶゆき)●1970年茨城県生まれ。通商産業省(現:経済産業省)を経て2003年に民主党から衆議院議員選挙に出馬。2009年に衆議院議員に。2017年、10月の第48回衆議院議員総選挙では希望の党から茨城1区で出馬するも惜しくも落選。
<『
月刊日本8月号』より>