供託金制度は、この選挙公営制度と密接な関係があります。供託金が高くなった理由の1つとして、選挙公営制度の拡充というものがありました。現在でもこの動きはあり、今まで町村議会選の立候補には供託金が不要でしたが、町村議会選では公費負担制度の対象外であったポスターや選挙カーなどの費用を公費負担の対象にする代わりに15万円の供託金を設けるという法案が本年6月に成立しています。
また、供託金の金額が跳ね上がった大きな理由として、この選挙公営制度を悪用し、金儲けを行った者が多く現れたというものがありました。
この選挙公営制度の悪用がもっとも問題となったのは1960年代でした。選挙管理委員会から交付された様々なものを横流しして、金銭に変える候補者が現れたのです。有権者に送るために一定数が交付される選挙はがきの横流しは代表的な例で、自分に割り当てられた選挙はがきを別の候補者に売るという手口でした。
1960年の衆議院選では、供託金が10万円で、各候補者に1万5千枚の選挙はがきが交付されていました。このときの横流しの相場がはがき1枚15~20円程度となっていたため、1枚15円で全て横流しできれば、20万円以上となり、供託金が没収されても十分儲けが出ることになっていました。
また、公費で負担される選挙用新聞広告の掲載に伴うリベートも問題になりました。選挙広告は臨時掲載扱いなので価格が高く、広告代理店の手数料が大きかったため、各代理店は選挙広告を獲得しようと血道を上げていました。
このため、契約をする代わりに多額のリベートが候補者に支払われるということが頻発しました。こちらもしばしば供託金以上の高額のリベートが支払われていました。この新聞広告のリベートは候補者が要求しただけではなく、広告代理店が主体的に動いていた事例も確認されています。
例えば、うちと契約すれば、リベートを渡すと候補者に持ちかけたという証言が複数確認されています。また、とんでもないところでは、供託金分の金を出すので、選挙に立候補して選挙広告をうちと契約してほしいと持ちかける者すらいました。
1960年代に大型選挙での大規模な選挙はがきの横流しの発覚や金儲けを目的とした露骨なまでの大量立候補が相次いだため、このような金儲けを目的とした「泡沫候補」排除の世論が盛り上がりました。
このような不正に対し、取り締まりの強化が行われました。これはある程度の効果を発揮し、前述した選挙はがきの横流しは激減しました。当時の報道では、はがきの横流しができなかったため、不正を取り締まる選挙管理委員会に対して、はがきを買い取ってほしいとまで言い出した候補者すらいたことが紹介されています。
そして、根本的な対策として、ある1つの大きな対策が取られました。それは供託金の大幅な値上げです。つまり、選挙はがきの横流しをしたり、広告のリベートをもらったりしても、儲けが出ないようにしたのです。
1962年では国政選挙の選挙区や知事選の供託金は10万円に過ぎませんでしたが、段階的に値上げされ、1975年には100万円と10倍になりました。さらに、その後も段階的に供託金は値上げされ、1994年に300万円とかなりの高額の供託金となり、現在に至っています。
このように選挙公営制度を悪用した候補者が多数出た結果、供託金の値上げという対策が取られ、制度の悪用は激減しました。しかし、供託金の大幅な値上げは選挙公営制度の趣旨を考えると、疑問点がかなり残ります。
選挙公営制度の本来の趣旨は金のかからない、資金力によって過度な差が出ない選挙というものでした。一般的に資金力の少ない候補、特に新規に立候補した候補は集票力が少ないことがほとんどです。このため、ポスターやビラの印刷代といった一部の公費負担制度は資金力が少ない候補が受ける機会が多くなく、一方で資金力の大きい候補者は公費負担制度の恩恵を十分に受けることができるという状況になっています。
また、余りにも高額な供託金により、選挙の立候補そのものができないという人も多く見られます。
選挙公営制度の維持のためにはある程度の供託金が必要であるという意見は理解できます。しかし、資金力によって過度な差があってはならないという選挙公営制度の趣旨を考えると、供託金が払えずに選挙そのものに立候補することができない人が多くおり、立候補という政治参加をするための大きなハードルになっているというのは本末転倒です。現在の供託金制度が適切なものであるか否かは今一度議論が必要であると思われます。
<文/宮澤暁>