遂に実現した候補者討論会。小池都知事は質問にどう答えたか? 信号無視話法で分析してみた

「築地は守る」公約はどうなった?

 続いて宇都宮健児氏は小池氏に豊洲市場と築地市場の問題について問いただす。その質疑は以下の通り。 20200627 QA2 宇都宮健児氏:「先日、私、あのー、えっとー、豊洲市場を視察して参りまして、そこで、あのー、仲卸の方等の話を聞いたんですけど。この間、非常に買い出し業者、顧客が減ってですね、仲卸の売上はほとんどの、あのー、業者さんが、あのー、減ってしまっている。だから非常に厳しい経済状態にある。しかも、えー、今回の休業要請に対する協力金の対象にもなっていないということで。それから豊洲市場に関しては年間130億円の赤字が出ているそうです。それで、まあ、あのー、小池知事として豊洲移転が良かったのかどうかということと、2017年の都議選の前に知事は『豊洲は活かす、築地は守る』ということを公約されましたけど、築地は守るという点についてどうなってるのか仲卸業者の中には大変、小池知事を信頼していたのに裏切られたという感情を持っている方も多いようですので、そのへんについてのお考えをお聞かせ願いたいと思ってます。」 小池百合子氏:「あの、豊洲市場の皆さん、今回のコロナの緊急、うー、緊急、うー、うー、体制のもとにおいてですね、まあ、料理、料亭等を含めてですね、外食等がなかなか厳しいというとことで、その、その分、特に高級魚などの売上が落ちたということでございます。逆にお家でみんな食事をする際に、えー、この、スーパーでの売上は逆に伸びたということであります。(黄信号)  これからもですね、市場、えー、豊洲市場がより活発になるように。また、あのー、11市場ございますので、それぞれの、あの、市場が活発、活性化するようにこれからも東京都として、あの、応援をしていくのは言うまでもございません。(赤信号)  それから豊洲市場のみならずですね、あの、おー、築地の話をされましたけども、築地市場についてはこれからもですね、あの、まあ、えー、築地の場外はあちらは商店街として中央区と共に連携をしていくということでありますけども、あの、築地を守る、そしてまた活かすということも、これも、あの、当然のことで引き続き行って参ります。(青信号)」  小池氏の回答を見ていると、やはり質問が何だったのか忘れてしまいそうになるので質問を改めて振り返る。宇都宮氏の質問は以下2点である。 ・年間130億円もの赤字を出している豊洲市場への移転を良かったと思っているのか? ・2017年都議選の『築地は守る』という公約はどうなったのか?  この質問に対して、小池氏はいったい何を喋っていたのか。具体的に3つの段落に分けて確認していく。  まず、1段落目は、豊洲市場の売上減少という周知の事実を説明しているだけであり、黄信号と判定した。しかも、「高級魚の売り上げが落ちた」とか「スーパーの売上は逆に上がった」とか質問との関連性が見えないような事柄を長々と説明している。ちなみに、スーパーマーケットは豊洲市場を通さずに入荷しているところも多く、あまり関係のない話だといえる。  続いて2段落目は以下のように論点をすり替えているため、これも赤信号 とした。 【質問】豊洲移転の是非 ↓すり替え 【回答】豊洲市場への応援  最後の3段落目は「築地を守る」という公約について考えを述べているので青信号としたが、仲卸業者は「裏切られた」と思っている人も多い、すなわち「公約が守られていないのではないか?」というニュアンスについてはまったくの無回答と言え、「築地を守ることを引き続き行っていく」という具体性が全くない回答にとどまっている。

関東大震災の朝鮮人虐殺犠牲者への追悼文の送付をなぜやめた?

 ライブ配信中に視聴者からあがった質問を司会者の津田大介氏が候補者に質問するパートに移り、歴代都知事が追悼文の送付を続けてきた関東大震災朝鮮人虐殺犠牲者追悼式に対して小池氏が送付を取りやめたこと*が話題にあがる。 〈*ハンギョレ新聞 「東京都、朝鮮人虐殺追悼祭開催に誓約書要求」(2020年5月19日)〉  そして、津田氏はこの問題について小池氏と4回にわたって質疑を繰り返す。そのやり取りは以下の通り。 津田大介氏(1回目):「あの、毎年9月1日に東京都墨田区の横網町公園で行われている関東大震災の、えー、この虐殺された朝鮮人犠牲者を追悼する式典について伺いたいんですが。歴代の知事が式典に追悼文を寄せていたんですけれども、小池さん、知事就任直後の2016年は送付したんですが、2017年からやめられています。これまあ、『震災の犠牲者全てを対象とする法要で哀悼の意を示している』ということなんですけども。『そもそも虐殺で殺された人たちと震災で殺された人たちは性格が異なるものである』という、こういった指摘がある中で、まあ、『様々な歴史認識がある』と曖昧にお答えされている。これについて、えー、これとも関連するんですけども追悼式典の実行委員会で横網町公園の占有使用許可の申請の受理を都が3回に渡って拒否していて、これに対する抗議のネット署名が3万以上集まっている。これについて、なぜ2017年から(追悼文送付を)やめたのか。そして、どのような歴史認識で行われているのか。これ、はっきりとお答え頂ければと。」 小池百合子氏(1回目):「まあ、今のお尋ねの件についてはですね、毎年9月3月、えー、横網町の公園内の慰霊祭で、慰霊堂で開かれております大法要で関東大震災そしてまたその先の、おー、大戦で犠牲になられた方への、えー、哀悼の意を表しているところであります。また大きな災害で犠牲になられた方々、それに続いて様々な事情で犠牲になられた方。これら全ての方々に対しての慰霊というその気持ちに変わりはございません。 (赤信号)  えー、そして、何でしたかしら? 津田大介氏(2回目):「えー、まあ、であれば、なぜ変わりは無いのであれば、それまで都知事が果たしていたものが、これをあえて取り止めという形にしたんですか? 」 小池百合子氏(2回目):「いや、それはですね、あのー、今申し上げましたように、えー、様々な事情で犠牲になられた方、そして、あの、おー、大きな災害で犠牲になられた方、あー、この方々の気持ち、お心ということで哀悼の意を、おー、表させて頂くのが毎年9月3月の、おー、慰霊堂での、おー、式であるということであります。(赤信号)」 津田大介氏(3回目):「虐殺と自然災害のものを一緒くたにして問題ないという認識でよろしいでしょうか?小池百合子氏(3回目): 「慰霊をするという点で、えー、この大法要での慰霊にあわせて頂いております。(赤信号)」 津田大介氏(4回目):「あの、公園での占有許可についてネット署名が3万以上集まっています。これについての受け止めはいかがでしょうか。」 小池百合子氏(4回目):「はい。あの、おー、その件については受け止めさせて頂きます。(青信号)」  小池氏の回答を見ていると、質問と回答が全く噛み合っておらず、やはり質問が何だったのか忘れてしまいそうになるので質問を改めて振り返る。津田氏の最初の質問は以下2点である。 ・朝鮮人虐殺犠牲者への追悼文の送付をなぜやめた? ・そして、それはどのような歴史認識に基づいているのか?  この質問に対して、小池氏はいったい何を喋っていたのか。具体的に4回の回答に分けて確認していく。  まず、1回目と2回目の回答では一貫して、以下のように論点をすり替えているため、これも赤信号 とした。 【質問】朝鮮人虐殺犠牲者への追悼文送付をやめた理由 ↓すり替え 【回答】関東大震災および戦争犠牲者の慰霊  しかも、1回目の回答の終わりには、まだ全く質問に答えていないにもかかわらず「そして、何でしたかしら?」とあたかも1つ目の回答は終えて次の回答に移るような発言をしている。さらに、2回目の回答の冒頭には「今申し上げましたように」とあたかも1回目の回答で自分が質問にしっかり答えたかのような発言も見られる。  全く質問に答えない小池氏に対して、津田氏は3回目の質問で虐殺と自然災害の犠牲者を同一視していることの問題認識を問うが、小池氏の回答は以下のように論点をすり替えているため、これも赤信号とした。 【質問】虐殺と震災の同一視 ↓すり替え 【回答】慰霊の時期  最後の4回目に津田氏は都が拒否した公園の使用許可に抗議するネット署名が3万筆も集まったことへの受け止めを確認する。質問が「受け止め」という曖昧な聞き方のため、青信号としたが、その中身は「受け止めさせて頂きます」という完全なゼロ回答である。  記事冒頭でも紹介した、ChooseLifeProjectがnoteで公開している討論会の文字起こしを確認すれば分かる通り、他の3候補(宇都宮氏、山本氏、小野氏)は政策のスタンスに違いこそあれ、少なくとも質問に対して回答する姿勢は示している。だが、小池氏だけは様子が全く違う。質問に対して全く関係ない話を延々と続ける。あたかも自分が質問に回答したかのように振る舞う。一貫して、極めて不誠実な態度をとっている。  ちなみに討論会の最後、司会の津田氏は4人の候補者にこう問いかけた。 「伺いたいことがたくさんあるが、やはり1時間では時間が足りない。もう1度、討論会をChooseLifeProjectで行うとなったら出演して頂けるでしょうか?」  宇都宮氏、山本氏、小野氏は、冒頭の10の質問への回答時に用いた「○」と書かれた紙をすぐさま画面いっぱいに映して出演を快諾する中、小池氏が発した言葉は「そうですね。また時間調整等が必要かと思います」であった。最後の最後まで小池氏が質問に答えることはなかった。 <文・図版作成/犬飼淳>
TwitterID/@jun21101016 いぬかいじゅん●サラリーマンとして勤務する傍ら、自身のnoteで政治に関するさまざまな論考を発表。党首討論での安倍首相の答弁を色付きでわかりやすく分析した「信号無視話法」などがSNSで話題に。noteのサークルでは読者からのフィードバックや分析のリクエストを受け付け、読者との交流を図っている。また、日英仏3ヶ国語のYouTubeチャンネル(日本語版/ 英語版/ 仏語版)で国会答弁の視覚化を全世界に発信している。
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