JR東海が「連絡会議」参加に応じない限り、「工事再開」は実現しない
そして新聞各紙は、
「2027年開通は延期される」との論調の記事を載せた。だが、今ごろになってその論調を載せることへの違和感を筆者は覚える。その理由を以下、説明したい。
⑴6月の準備工事再開は時間的に無理。
協定締結するには、それを県の「連絡会議」で話し合わねばならないから。連絡会議が最後に開催されたのは4か月前の2020年2月。それ以来、県がJR東海に連絡会議の開催を呼び掛けても、JR東海はその日程を組もうとしていない。
2014年から静岡県が開催する「中央新幹線環境保全連絡会議」。5年以上も話し合っても、JR東海は具体的な水環境保全策を打ち出していない
もっとも、4月から始まった国土交通省が主宰する「有識者会議」の準備や参加、そして6月23日の株主総会もあっただろうから、時間的に難しかった一面はある。
JR東海が「連絡会議」参加に応じない限り、「工事再開」は実現しない。6月26日に会談をして、残る平日である6月29日と30日のどちらかで「連絡会議」開催を調整するのは絶対に無理だ。
釣り客でにぎわっていた「棚の入沢」(山梨県上野原市)は、リニアのトンネル工事が地下水脈を絶ったためか、一滴の水も流れない空き地へと変わった。リニア工事の現場では、こうした現象があちこちで起きている
⑵他県も工事が遅れている。
実は、これは川勝知事が今回の対談のなかで金子社長に投げていた説明だ。
「名古屋駅周辺では用地買収が終わっていない。2021年3月まで延期される予定だ。岐阜県では非常口のトンネル崩落があり工事が中断した。長野県大鹿村の除き山非常口工事も2年遅れだ。それを言わないで、静岡県だけが工事を遅らせているように言われている」
これに対して、金子社長は明確には回答せず
「静岡県だけの原因と言っているのではない。ただ静岡での工事にいちばん時間がかかるから、という切迫感があります。2027年末までになんとか竣工したい」と説明した。
おそらく、今回の会談を取材した記者たちの多くは地元記者であることから、静岡県以外の情報を持っていなかった。だから、知事と社長のこのやりとりに焦点を当てた記事はなかったのだ。
もし彼らが他県の工事の遅れを知っていれば、もう昨年や一昨年の時点で「2027年の開通は無理」との判断ができたはずだ。
なぜ断言できるかというと、筆者は他県での工事の遅れの情報を集めているからだ。
それによると、2年遅れ、3年遅れのリニア工事が当たり前にある。それを見る限り、「2027年開通は完全に無理」だと言える。
筆者が調べている各県でのリニア工事の遅れ。まだ情報が集まり始めたばかり
例えば、長野県大鹿村での釜沢非常口(斜坑)の掘削工事は、計画では2017年第2四半期から行う予定だったが、始まったのは2020年3月。実に3年遅れとなっている。6月26日現在で、その進捗は2割にすぎない。
また例えば、長野県豊丘村の坂島工区でのトンネル掘削は2018年開始予定だったが、未だに始まらず、来年に始まったとしても3年遅れである。
実は今、静岡県も他県での工事の遅れの情報を収集しているところだという。というのは、今回
「2027年開通が延期」と報道されたことで、リニアが通る他県は
「お前のところのせいで開通が遅れる」と、静岡県を冷ややかな目で見るはずだ。
静岡県としては、
他県で工事の遅れが頻発しているのはまさしくJR東海自身の責任であるということを明らかにする必要があると考えている。
ともあれ、トップ会談で収穫のなかったJR東海が、次に国や静岡県にどうアプローチするのかについて注視していきたい。
<文・写真/樫田秀樹>