「直接あいさつをしたい」と赤木さんが阪口弁護士の裁判へ
大阪地裁を訪れた赤木雅子さん
それでは、なぜ阪口弁護士が赤木さんの代理人を務めていないのか? それは、俊夫さんの死が職場に原因のある「労災」のような側面があるから、それなら自分より詳しい弁護士がいると言って、長年交友のある松丸正弁護士を紹介したからだ。松丸弁護士は過労死弁護団の重鎮である。赤木さんの裁判は、松丸弁護士と、同じく過労死問題に詳しい生越照幸弁護士が担うことになった。
弁護団の当初の構想では、阪口弁護士は表に立たないものの、弁護団会議には補助的に出席する形を取ることになっていた。ところがその後のコロナ禍を受けて、阪口弁護士はZoomによるリモート参加をすることになった。弁護団会議のあと、赤木さんは「私、Zoomの向こうの阪口先生の声を聞くだけで胸が詰まってしまいます」と話していた。
そんな時、阪口弁護士が中核を担う森友問題の裁判が判決を迎えると聞いて、ぜひ傍聴に行きたい、できれば直接あいさつをしたいと考えたのだ。
6月25日午後2時半、赤木雅子さんは大阪地裁東門で待っていた。そこに阪口弁護士が姿を現した。「阪口先生」と声をかけて近づく赤木さん。「お~、久しぶりやな」と応じる阪口弁護士。「あの時は本当にお世話になりました。ありがとうございました」「いやいや、あんたもいよいよ裁判が始まるな」「はい、これからもよろしくお願いします」。
時間がないので、ほんの短い間の立ち話だったが、赤木さんは「久しぶりにお話ができてよかったです」と満足していた。
勝訴でも控訴するのは「赤木さんの裁判への援護射撃」
大阪地裁では、7月15日から赤木さんの裁判が始まる
その10分後、阪口弁護士をはじめ弁護団と原告の大学教授がそろって大阪地裁正門から入庁した。この裁判は、神戸の大学教授が3年前、森友問題発覚後に関連する公文書の開示を求めたにもかかわらず、217件の文書が違法に開示されなかったとして損害賠償を求めていた。判決の言い渡しは午後3時から。法廷の傍聴席には赤木雅子さんの姿もあった。
「主文、被告(国)は、原告に対し、33万円を支払え」
情報開示をめぐる裁判でこれだけの損害賠償が認められるのは珍しい。弁護団は勝訴だと受けとめた。普通なら控訴はしない。ところが阪口弁護士は事前に断言していた。「
勝っても負けても控訴する」という。その理由は?
「国は裁判をやめたくて仕方がない。真相を追及されるからな。だからわしらは控訴して裁判を続けたる。そして新たな証拠として赤木俊夫さんの手記を提出する。これが公表された時は、この裁判はもう結審していた。だから控訴審で赤木さんの手記を証拠にして国を追及する。つまり赤木さんの裁判への援護射撃や」(阪口弁護士)
この裁判の判決に先立って赤木雅子さんは、大阪地裁2階の大法廷を訪れた。赤木さんの裁判は注目度が高いから、一番広く傍聴人が多数入れる大法廷が使われる可能性が高い。法廷の中には入れなかったが場所を確認した。赤木さんは、その後の阪口弁護士の裁判で判決を見届けた。
赤木:見ておいてよかったです。裁判の雰囲気がわかりました。阪口先生が勝ったのもよかった。
――でも阪口さんは控訴すると言っていましたよ。俊夫さんの手記を証拠申請するそうです。赤木さんへの援護射撃だそうです。
赤木:本当にありがたいです。
――阪口さんの一言がなければ赤木さんの裁判はどうなっていたかわかりませんね。
赤木:そうですね。私、決断するのは早いんです。
赤木雅子さんの裁判は7月15日に始まる。同じ日、裁判に至る経緯を詳細に記した、赤木さんと私の共著書(
『私は真実が知りたい 夫が遺書で告発「森友」改ざんはなぜ?』)が文藝春秋社から発売される。赤木俊夫さんの無念を晴らす雅子さんの闘いが、いよいよ火ぶたを切る。
<文・写真/相澤冬樹>