
直売所「わんさか大浦パーク」のジュゴン像。干潟の先に大浦湾が広がる(写真/筆者、2020年2月)
 6月12日、沖縄県名護市辺野古の新基地建設工事が批判と懸念の中で再開された。工事は新型コロナウイルスの影響で4月17日から中断されていた。6月7日に行われた沖縄県議会選挙では新基地反対の当選者が過半数を占め、その矢先の工事再開に玉城デニー知事は不快感を示した。背景の一つには、埋め立て予定海域の大浦湾でジュゴンの鳴き声が2、3月に相次いで確認されていたことがある。
 ジュゴンは人魚のモデルとして知られ、日本の天然記念物に指定されている。沖縄のジュゴンは地球で最も北に生息する「北限のジュゴン」で、
昨年12月に国際自然保護連合(IUCN)からは絶滅の恐れが最も高い「深刻な危機」と評価された。デニー知事は、工事再開がもたらすジュゴンへの影響を懸念し、沖縄防衛局に工事の停止を再三求めていたのだ。
 最近、沖縄のジュゴンについて朗報があった。4月10日に行われた沖縄防衛局が設置する
「環境監視等委員会」で、埋め立て予定海域付近に設置された水中録音機のデータから、ジュゴンと見られる生き物の鳴き声が2月に検出されたと報告があったのだ。
 沖縄で個体識別されていたジュゴンはたった3頭で、1頭は昨年3月に死亡した。残り2頭は名護市東海岸の辺野古や嘉陽で生息が確認されていたが、2015年と2018年を最後に行方不明になっていた。
 鳴音(めいおん)は2月11日、23日、24日に記録され、いずれも工事が行われていない日だった。
同じ個体であるかは不明だが、工事の合間を縫って辺野古・大浦湾にジュゴンは戻ってきていたのだ。
 3月にも同じ地点でジュゴンの鳴音が検出されたことが、5月実施の同委員会で報告された。資料によると、鳴音は2月に19回(3日間)、3月に23回(5日間)の合計42回が記録され、
工事が行われていない日や時間での記録は31回にのぼり、全体の73%を占めることがわかった。
 下記の通り、週末や祝日に加え、早朝や深夜などにも記録されている(太字)。埋め立て用の土砂運搬船や監視船が行き交う大浦湾に、ジュゴンが餌を求めて来遊していたのかと思うと胸が痛くなると同時に、野生のたくましさに目を見張る。

沖縄防衛局、普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境監視等委員会(第25回)資料2「ジュゴンの生息状況について」より(2020年4月)