「妊娠したかも」「家にいたくない」…。コロナ自粛で逃げ場を失う子どもたち

確実に支援機関に辿り着く仕組みを

――Mexを立ち上げたきっかけについてお聞かせください。 森山:例えば、大人は美容院やレストランを探している時、様々な便利なアプリなどによってすぐに適切な情報が得られます。ところが、子どもたちは大事なことを相談する相手すら便利に検索できません。重さで言えば後者が圧倒的に重いのに、です。それは経済原理としてはある意味当然の結果かもしれないですが、あるべき姿としては正しくないと思いました。  3keys発足当初は、児童養護施設、母子支援生活施設に虐待やDVなどで保護された子どもたちへの学習支援をしていたのですが、虐待を受けながらも誰にも相談できずに一人で何年も過ごしていたという子たちに数多く出会ったんですね。本人は虐待を受けていたことすら自覚がなく、自分がバカだから、自分が出来が悪いから叩かれた、施設に来たと自分を責めているケースも多かったです。   虐待が長引けば長引くほど、子どもに与える悪影響は大きく、なぜもっと早く保護できなかったのか、すぐに発見できなかったのかと思うことが数多くありました。  学習支援をするにしても、虐待を受けた子は大人に心を開くまで時間が掛かります。中には自傷行為をしている子もいます。長い間否定されて来た子どもたちは、せっかく学習で成果が出ても、自分を責め続けたり、できないところにばかり目がいってしまうんですね。子どもたちが素直に自分のことを受け入れられない事実を頻繁に目の当たりにしていました。  また、学習支援をする中で多くのNPOと関わって分かったのが、支援につながる子は「ひとり、必ずその子を気に掛けてくれる大人がいる」ということでした。親戚や学校の先生、貧困などの場合には親自身などです。相談窓口や支援機関の情報は、一般の大人が見てもわかりづらいものが多いので、その子を気にかけてくれる、比較的余裕のある大人が一生懸命探して、熱心に彼らに働きかけてようやく利用に至っています。  虐待の場合、親がそこまで行動することは期待できないですし、親戚や学校も家庭の問題に踏み込まないとなると、結果的に支援機関の利用はとても遠いものになってしまいます。  裏を返せば、本当に孤立している子は支援機関まで辿り着くことができません。その結果、虐待で保護されるケースの半数は、警察沙汰になった子や近隣の人が見ていられなくなって通報された子たちという現状があります。子どもたちが保護されたり、SOSを出せるスピードを早める仕組みの必要性を現場でずっと感じていました。 ――Mexの名前の由来についてお聞かせください。 森山:「虐待相談〇〇」とすると子どもたちが遠ざかってしまうので、子どもがなじみやすく、重くとらえすぎない名前にしたかったんですね。「Mex」の由来は「Me」(私)と「社会」がクロス(X)する(ミーとクロス⇒ミークス)というところから来ています。  そういうメッセージは必ずしも利用する子ども側が良い気持ちになるわけではないので、積極的に表には出していませんが、大人は説明やメッセージを求めることが多いので、意味のあるサイト名にしました。ただ、社会の未熟さゆえに子供たちがMexを利用せざるを得ない状況にあるので、あまりメッセージを押し付けたくはないという気持ちがあり、今後もネーミングについて積極的に伝えることはしないです。 ――Mexの利用者数は2019年度末には100万人を越えたとのことでしたが、とても使いやすい仕様です。 森山:虐待で保護された子たちと接してきて学んだのは、彼らは顔の見える大人に相談することは諦めているということでした。最も身近な大人にひどい扱いを受け、学校や近所の人にも長期間見て見ぬふりをされて来たので、当然の結果とも言えます。嫌なこと、困ったことがあった時は大人に相談するというのは最後の選択肢で、Twitterでつぶやいたり、ネットで検索して、情報を収集するのがまず一歩目です。  そうした現状を踏まえて、子どもたちが一番信頼しているインターネットを利用して、きちんとした支援機関に辿り着けるサイトを作ろうと考えました。 ――「たたく・殴る」「性被害・わいせつ」/「家族・親戚」「学校の友達・先生」などの検索ワードを入れることによって、自分に合った支援機関をすぐに探せるようになっています。 森山:当初は3keysが相談を受けて適切な支援機関につなぐこともしていたのですが、私たちに打ち明けるのも大変なのに、打ち明けた結果、別の支援機関につなぐことに抵抗を感じる子どもが数多くいました。その時に、子どもにつらい体験を何度も話させたくないと思ったんですね。そこで、ダイレクトに支援機関につなぐ、現在のスタイルのポータルサイトができました。

学習支援で目標を持つように

――3keysの学習支援サポートを受けた子どもたちで事態が好転したケースについてお聞かせください。 森山:学習支援サポートを受けている子たちは、児童養護施設と母子支援生活施設などほとんどが虐待やDV(ドメスティック・バイオレンス)を受けていた子たちです。絵本を読んでもらったこともなければ、同世代の子たちが当然享受しているであろう最低限の愛情すら受けたことがないケースが多いです。  親にすら素直に甘えたり助けてもらった事がない子どもたちが、3,40人の学校の授業で、「これがわからない」と質問したり、先生に頼ることはとても難しいです。幼少期から家庭環境の差があり、同じ授業を聞いてどんどん学習が進む友達を見て、自信もなくしていきます。そういうこともあり、個別にサポートして、何か月か関係性を築き上げてから、やっと質問ができるようになるんです。多くの子は幼児教育の頃から遅れがあるので、すぐに成果が出るのは難しいものの、質問できる人がいるだけで急に伸び始める子もいます。    また、勉強のコツが掴めたり、成績がよくなってくると、突然、目標を言い出す子がいるんですね。ある中学生の男子は、建築家になりたいと言い出しました。今まではクラスで成績がビリだったので笑われると思って言えなかったと。ところが、成績が向上すると堂々と目標を掲げていいんだと自信が持てるんですね。難関校合格などのサポートをできる塾ではないので、最終的に建築家になるまで導けるかは別の話になりますが、「自分は目標を持っていい」と思えるようになるまでのサポートをすることはできます。
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