連続答弁拒否の記録保持は、2020年3月6日の参議院予算委員会における森まさこ法務大臣の36回。社民党の福島瑞穂議員から東京高等検察庁黒川検事長の定年延長について質問され、「個別の〜」を理由に36回連続で答弁を控えた。
「個別」を理由とした答弁拒否は全体の19.9%を占めており、主に企業の不正や社会でおきている問題について質問された時、「個別の企業、個別の事案のためお答えを控える」と使用されるのが安倍政権下でも一般的だった。
これまでの前例から考えると、誰の前で黒川氏が定年延長の同意書に同意したのかという政府内での人事について、森法務大臣が「個別」を持ち出し、答弁を控えたのは異例のことだ。安倍政権内での「個別」の範囲が、本来明らかにすべき政府の意思決定プロセスにまで広がっており不透明さが増していると言える。
次にどの話題に対し答弁を拒否してきたかを調査したところ、森友学園問題が450件と最も多く、原発(再稼働、再処理など)281件、TPP256件、沖縄基地移設問題246件、北朝鮮問題(核開発、弾道ミサイルなど)210件、集団的自衛権192件、加計学園問題192件、北方領土165件、桜を見る会114件、拉致問題98件がトップ10にランクインした。
通年で国会の議題に上がっていた原発や沖縄基地移設問題、北朝鮮問題に比べ、2017年に初めて国会で話題に上がった森友学園問題が2位以下にダブルスコアーをつけトップだった。森友学園問題には安倍政権がどうしても隠しておきたい不都合な事実が存在していることが答弁拒否の数字から伺える。
森友学園問題が国会で初めて話題に上がった2日後の2017年2月17日の衆議院予算委員会において、安倍首相が「私や妻がこの認可あるいは国有地払い下げに、もちろん事務所も含めて、一切かかわっていないということは明確にさせていただきたいと思います。もしかかわっていたのであれば、これはもう私は総理大臣をやめるということでありますから、それははっきりと申し上げたい、このように思います」と見切り発車的に発言した。
その後、首相や首相夫人と森友学園との疑惑が浮かび上がり野党から厳しい追求を受けた時、首相を守るために様々な政府関係者が答弁を控えることに終始し、回数が積み上がっていった。さらにほとぼりが冷めかけた時に、財務省理財局による決裁文書の改竄や自殺した近畿財務局職員の遺書公開などの新事実が明らかになり、国会での追求が加熱した。
今年に入ってから安倍首相や麻生財務大臣は森友学園問題の再調査を拒否したが、この問題に対し450件の答弁拒否を国会論争において行なっており、国民への十分な説明責任を果たしたとは言えない。
森友学園問題の他にも説明責任を果たしていない疑惑や、議論が深まる前に強引に通した法律が数多くあり政府への厳しい追求を野党が行なっていた。しかし、質問には答えず、提出を求めた文書は黒塗り(桜を見る会の資料やTTP交渉資料)、極めつけは公文書の改竄・隠蔽(財務省理財局による決裁文書の改竄、南スーダン・イラクPKO日報隠蔽)と与えられる情報がわずか、かつその中に嘘が混じっており、政府の信頼性が地に落ち国会での政策論議が深まっていないのが現状だ。
<文/日下部智海>