コロナ死者4万人を超えたイギリスで、最も被害を受けているのは子どもたちだった

コロナで子どもたちが甚大な被害を受けている

「Save the Children UK」のウェブサイト

大手NGOの「Save the Children UK」のウェブサイトでは、コロナ でストレスを抱える家族と子どもたち向けに、学習や遊びについてのさまざまなアドバイスを提供している

 イギリスでは新型コロナウイルスによる死者数が約4万人と、アメリカ・ブラジルに次いで世界第3位、ヨーロッパでは最悪の状況となっていて、3月23日の外出禁止令以後、現在も引続きロックダウンの状況にある。  政府は5月中旬に段階的なロックダウン解除計画を示していて、6月1日から小学校の一部の生徒が学校に戻れるようになり、6月中旬からは小売店も営業を再開した。しかし全生徒の学校復帰の目処は立っておらず、生活の通常化にはほど遠い。  すべての人の生活に影響を与えた新型コロナウイルスだが、中でも「弱い立場の子どもたちが甚大な被害を受けている」とイギリスのNGOが警告。もともとイギリスでは、子どもに関わる予算が年々減らされていた中、「新型コロナ流行によりその傷口が大きく広がった」と指摘されている。  コロナ禍は、貧困など支援の必要な子どもたちを新たに出現させ、さまざまな緊急ニーズを増大させた。その一方、サポートする政府とNGOセクターはキャパシティ不足に陥り、深刻な需給ギャップが生じているためだ。イギリス大手NGOに勤めるW氏の話を交えて、見ていきたい。

子どもの貧困対策に効果の高い「早期介入」への支出が激減

Children’s Society

大手NGOの「Children’s Society」でも、10代の若者に向けて、コロナ 禍で生じるさまざまな精神的症状について具体的なアドバイスを提供している

 イギリスでは、子ども全体の30%にあたる420万人が貧困の状況にある。こう書くと、日本の子どもの貧困率13.9%に比べて非常に高い数値のように思えるが、イギリスでは日本より厳しい貧困率の計算方法を採用している。同じ計算方法で引き直すとイギリスの貧困率は12.9%となり、日本より若干低い。  このイギリス基準において、 2000年以降、子どもの貧困率は概ね30%の横ばいを続けて変化がほとんどない一方、子ども・若者政策への支出が年々削減されているという批判が、NGOから政府に対してなされてきた。  2011年度と2018年度を比較すると、96億ポンドから74億ポンドと、22億ポンド(約3000億円)も減少している。中でもNGOが着目するのは、子どもの貧困対策に非常に効果が高いとされる「早期介入」への支出がこの間46%も減少したことだ。 「早期介入」とは、子どもが急速に成長する幼少時に問題のある家庭に関わっていくことが、子どもの発達にとって最も効果的であり、その後起こりうるさまざまな問題を防ぎうるという研究結果に基づく施策である。  例えば、大手NGOの調査によると「貧困家庭の3歳児は、そうでない子どもより言語能力や数字に関する能力が1歳ほど劣っていて、その後も決して追いつくことができない」(W氏)という。  同団体は早期介入の効果に着目し、8歳以下の子どもたちに焦点にあてて活動している。しかし、政府も早期介入の効果を認め施策に組み込んでいるものの、予算全体のパイが大幅に縮小する中で、「後期介入」といわれる少年犯罪や子どもの保護に関わる支出が過半を占めている。本来もっと支出すべき「早期介入」にコストを割けず、子どもの貧困率もここ10年ではまったく改善しなかった。
次のページ 
新型コロナパンデミックによる「新たな貧困」の増加
1
2
3
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会