感染者数が123万人を突破したブラジルの「コロナ禍」報道は正しいのか?

コパカバーナ海岸

リオのコパカバーナ海岸の様子。週末にビーチに繰り出す人が増えたため追い出し規制が行なわれ、再びビーチから人影は消えた© A. Gonçalves

 ブラジルの新型コロナウイルス(以下COVID-19)感染者が123万人、死者は5万5000人を突破したという。このことについて日本のマスコミで連日報道されているのは、ブラジル保健省の発表によるCOVID-19感染者数/犠牲者数の断片的情報をもとに、「爆発的に増えています」という内容ではないだろうか。これは事実である一方で、誤った紹介の仕方、誤解を生む印象の強い報道がほとんどだ(実際の世界各地の数値は、Googleで国名を入れるとリアルタイムに地域別グラフ・マッピングで確認できる)。  今回は日本の皆さんに、ブラジルについて正しくご理解いただき、誤解されないよう、ブラジルのCOVID-19における事実関係を整理・解説したい。  ブラジルに関して、誤解を生みやすい日本のマスコミ報道のポイントをまとめてみた。 ①「ブラジルでは〜」という報道のあり方 ②「ボルソナロ大統領の失策によって〜」という報道 ③「南半球ブラジルは冬に向かっていて今後感染がさらに懸念される」という報道 ④「発表されている数」は本当か?

「ブラジルでは〜」という大雑把な紹介が不正確さと誤解を呼ぶ

 日本のTV各局や報道機関をチェックすると「ブラジルが〜、ブラジルでは〜」と端的にニュースを流しているのが常だ。一般的にはよく知られていないかもしれないが、ブラジル連邦共和国はアメリカ本土やEUよりも国土面積が大きく、日本の約23倍もの国土に約2倍の人口を持っているのだ。  大国であるブラジル国内には時差があり、3つの時間帯に分けられている。当然、民族文化、地理的な気候、食文化、経済、歴史に至るまで多様な差異がある。平面の地図ではなく、正確な面積を表す地球儀を見ていただくと一目瞭然だ。  それを「ブラジルでは〜」と一言で片づけることはCOVID-19に限らず、かなり不正確さを生む報道で、誤解を生みやすくなる。たとえば、日本でも正確な情報を伝える場合に「ヨーロッパでは〜」とは言わず、「どの国の〜どの都市では〜」と伝えるし、「アメリカでは〜」とは言わず「ニューヨーク州〜何市では〜」となるはずだ。西海岸南部のサンディエゴで起きていることと、東海岸北部のニューヨークで起きていることを一緒に考える日本人はあまりないはずだ。  大国において「一つの州が日本の規模と同等くらい」であることは珍しくない。番組でテロップこそ出ているが「サンパウロ州では〜」さらに「大都市サンパウロ都市圏では〜」「サンパウロ市内では〜」などと“ブラジルの状況を正確に説明するメディア”が日本ではあまりにも少ないのが現状だ。  現在のブラジルは、人口が約2億1000万人。面積は日本の約23倍、州の数は26州+連邦首都ブラジリア直轄地(合計27)。COVID-19に限らず「まるでブラジル全土で物事が一律であるかのような不正確で乱暴な報道」はそろそろ終わりにするべきではないだろうか。
ブラジル北東部

サンパウロ市から北東に約2000km。ブラジル北東部ペトロリーナ市(ペルナンブーコ州)からジュアゼイロ市(バイーア州)を結ぶ主要幹線道路が走る橋© F. Fernandez

 以下、COVID-19についてのブラジル連邦共和国:最新状況(現地時間2020年6月25日現在)をまとめてみた。 【COVID-19感染者数(死亡者数)】(抜粋) ◇ サンパウロ州 約24万8587人(1万2588人) ◇ リオデジャネイロ州 約10万6133人(9450人) ◇ アマゾナス州 約6万7267人(2731人) ◇ 首都ブラジリア連邦区 約3万8871人(509人) ◇ マトグロッソ・ド・スル州 約6523人(61人) 〈参考:各州保健局と、そこからの更新にもとづき、ブラジル主要各メディア:Extra紙、O GLOBO紙、G1、Folha de S.Paulo、Uol、Estado de S.Pauloが報じた数値。およびGoogle(リアルタイムより少し遅い)による正式発表〉  州ごとに見てみると、サンパウロ(南半球最大の大都市)が2位のリオデジャネイロ州の倍以上で、桁違いに多いのがわかる。また、ブラジル国内でも大きな差異があるのがわかる。これが「人口に対する数」となると、また印象が大きく変わるはずだ。日本でも東京都心と地方とで感染者数に差異があるように、州内でも差異があるのが当然だ。

「南半球のブラジルは冬に向かい、感染がさらに懸念される」という報道のおかしさ

 前述のように、ブラジルは国内で大きな差異があって一律ではない。赤道直下の北部は常夏だ。基本的には、南半球では南へ行けば行くほど寒くなるが、ウルグアイやアルゼンチンと国境を接するブラジル最南部リオ・グランデ・ド・スウ州でも亜熱帯性気候に属する。  最も冷え込み、積雪もあるサンタカナリーナ州の一部の山間部であっても、日本の真冬のような厳しい冷え込みになる日数は少ない。だから、日本の報道にある「ブラジルは冬に向かっている」という表現はまるで、ブラジルに日本レベルの冬がやってくるかのような不正確な印象を与えるのではないだろうか。
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「ボルソナロ大統領の失策によって〜」という報道のウソ
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