不安でいっぱいのネトウヨとコンプレックス商法<史的ルッキズム研究4>

自信を取り戻すための歴史修正主義

 この落ち着きのない、危機感でいっぱいいっぱいな傾向は、1990年代に始まります。90年代に新しい保守層を糾合した「自由主義史観研究会」「新しい歴史教科書をつくる会」は、設立当初から一貫してこの現代的な不安を表明していました。「新しい歴史教科書をつくる会」は、戦時中の「慰安婦」問題など現在まで続く歴史論争を繰り広げることになるのですが、その内容の是非については、ここでは措きます。  私がここで考えたいのは、その歴史観の内容ではなく、彼らの動機付けです。彼らは何に突き動かされて歴史論争に取り組んだのか。自由主義史観研究会の代表・藤岡信勝氏は、このことを明確にしています。彼は、自分たちが失った自尊心・誇り・自己愛・自信を回復するために、歴史記述を見直すべきだと言ったのです。  これは歴史学における発明と言えるものでした。多くの人々が自尊心を損なわれていると訴えたことが、藤岡信勝氏を成功に導きます。それまで歴史に関心を持たなかった人々を論争にまきこむことに成功したのです。

コンプレックス商法で運動を拡大

 これは今から振り返って考えてみれば、一種のコンプレックス商法と言えるものでした。コンプレックス商法とは、不安や劣等意識を抱いている人々に働きかけ、解決策とされる商品やサービスを販売する方法です。身長増大、肥満解消、脱毛、包茎矯正などがそうです。  藤岡信勝氏はこの方法を歴史論争に持ち込みました。私たちが自信を失っている原因は、従来の歴史観が誤っているからであって、正しい歴史観を身に付けることで自信を回復することができるのだ、というわけです。80年代までの歴史論争と90年代以後の歴史論争との違いはこの点にあります。藤岡信勝氏は、歴史学とコンプレックス商法を混ぜあわせることで、新しい質の読者を獲得し、運動を急速に拡大していったのです。 ※近日公開予定の<史的ルッキズム研究5>に続きます。 <文/矢部史郎>
愛知県春日井市在住。その思考は、フェリックス・ガタリ、ジル・ドゥルーズ、アントニオ・ネグリ、パオロ・ヴィルノなど、フランス・イタリアの現代思想を基礎にしている。1990年代よりネオリベラリズム批判、管理社会批判を山の手緑らと行っている。ナショナリズムや男性中心主義への批判、大学問題なども論じている。ミニコミの編集・執筆などを経て,1990年代後半より、「現代思想」(青土社)、「文藝」(河出書房新社)などの思想誌・文芸誌などで執筆活動を行う。2006年には思想誌「VOL」(以文社)編集委員として同誌を立ち上げた。著書は無産大衆神髄(山の手緑との共著 河出書房新社、2001年)、愛と暴力の現代思想(山の手緑との共著 青土社、2006年)、原子力都市(以文社、2010年)、3・12の思想(以文社、2012年3月)など。
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