「トルコ政府による迫害はない」と、頑なにクルド人の難民申請を認めない日本の司法

名前や顔を晒し、クルド問題を訴え続けてきた

アリさんの裁判

アリさんの裁判には、いつもたくさんの友人が集まってくれる

 今年で28年も日本で生活しているアリさんにとって、今回の裁判は最後のチャンスともいうべき重要なものだった。2018年12月に裁判は始まり、長い日本の生活で日本の友人がたくさんいるアリさんには、常に応援する人が多数いた。  裁判だけでなく、メディアに顔や名前を露出して、自分の境遇を世の中に訴えてきた。文化放送のラジオ番組「大竹まことのザ・ゴールデンヒストリー」でもアリさんのことを語ってもらえた。  諏訪敦彦監督の映画「風の電話」にも出演を果たし、劇中でクルド問題を訴えている。声がかかったものはすべて引き受け、署名を集めるなど在留資格につながる可能性のあることなら、なんでも行動を起こした。  2019年10月、夫婦の口頭弁論となった。アリさんの妻は法廷で、トルコにいるアリさんの母が昨年亡くなり、アリさんはそれでも戻ることができずに2人で抱き合って泣いたと、涙する場面があった。  妻だけはアリさんの実家に訪れたことがあり、親族にとても歓迎された。「いつかアリがビザを取ったら、2人でお義母さんのお墓参りに行きたい」と語った。  しかしアリさんは例えビザを取れたとしても、トルコに戻ることは決して叶わない。

「トルコ政府によるクルド人の迫害はない」という判決要旨

 この裁判は2020年1月に結審となり、4月に判決が決まった。しかしコロナのため4月は延期となり、6月11日に変更された。6月10日はアリさんの36歳の誕生日で、勝訴すれば素晴らしいバースデイプレゼントとなったことだろう。  しかし友人たちが見守る中、敗訴が言い渡されてしまった。判決の要旨は、以下のようなものだった。 「トルコ政府によるクルド人の迫害はない。アリさんは長年日本にいるが、長期間不法残留をしているだけ。結婚に関しては、在留特別許可に関するガイドラインに沿っているといっても、絶対にビザを出すとは限らない。アリさんがトルコに帰り、妻がたまにトルコに会いに行くなりすればいいし、電話や電子メールもある」  アリさんは裁判後に、傍聴に来てくれた人たちの前でこう語った。 「こういう結果になるとは信じられない。今回は自信があった……残念ですね。ここまで差別するというのは、信じられない。これからの生活はどうなるのか……。次は控訴の結果を待つしかない。控訴してもダメだと思うけど……。これからもみなさん応援お願いします」  アリさんの目は悲しそうだった。これほど迫害や危険の証拠を出しているのに、裁判官はすべて無視したのも同然だ。とても公平さがあるとは思えず、日本の司法に疑問を禁じ得ない。  どうして日本政府は、こうまでして意固地にアリさんの在留を認めてくれないのか。日本で幸せに生きることに、いったい何の不都合があるというのか。後は高裁で闘うことになる。いったい、いつまでアリさんは闘い続ければいいのだろうか。 <文・写真/織田朝日>
おだあさひ●Twitter ID:@freeasahi。外国人支援団体「編む夢企画」主宰。著書に『となりの難民――日本が認めない99%の人たちのSOS』(旬報社)など。入管収容所の実態をマンガで描いた『ある日の入管』(扶桑社)を2月28日に上梓。
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